こんにちは。心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
今回は、「心臓リハビリの対象となる疾患」についてお伝えします!
心臓リハビリを実施した場合、「心大血管疾患リハビリテーション料」として診療報酬を算定します。ただし、心臓に関する疾患であったらどんなものでも算定できるわけではありません。
そのため、この記事では「心大血管リハビリテーション料の対象となる疾患」について整理していきます。これを読めば、心臓リハビリの適用となる疾患、適用外の疾患が分かります。
また、令和4年の診療報酬改定で「回復期リハビリテーション」の対象疾患として、心疾患が追加されましたので、そちらの情報も併せてお伝えします。
それでは早速確認していきましょう!
心臓リハビリの医療保険の適用となる疾患
「心大血管疾患リハビリテーション料」の対象となる患者さんは、以下のいずれかに該当し、医師が個別に心大血管リハビリが必要であると認めるものであることが条件となります。
- 虚血性心疾患(急性心筋梗塞、狭心症)
- 開心術後
- 経カテーテル大動脈弁術後
- 大血管疾患(大動脈解離、解離性大動脈瘤、大血管術後)
- 末梢血管疾患
- 慢性心不全
虚血性心疾患
「急性発症した狭心症」や「急性心筋梗塞」が対象となります。なお、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)の実施の有無や、残存狭窄の有無は問われません。
開心術後
開心術とは、心臓外科手術において心臓を切開し手術を行う方法です。
具体的には、冠動脈疾患に対する冠動脈バイパス術や、心臓弁膜症に対する弁形成術・弁置換術、大血管疾患に対する人工血管置換術などがそれに当たります。
経カテーテル大動脈弁置換術
最近では、重症の大動脈弁狭窄症(大動脈弁が硬くなり十分に開かなくなる病気)に対して、カテーテル治療であるTAVIが行われるようになり、こちらもリハビリの対象となっています。
大血管疾患
大血管疾患とは、急性発症した解離性大動脈瘤、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤または大動脈瘤術後、急性大動脈解離術後などが対象となります。
末梢血管疾患
末梢動脈閉塞性疾患であって、間欠性跛行を呈する状態のものが対象となります。Fontain分類でいえばⅡ以上の方が対象です。(参考:Fontain分類について)
慢性心不全
慢性心不全の場合は、以下の3項目のいずれかの基準を満たしている必要があります。
- EF(左室駆出率)≦ 40%
- BNP(脳性Na利尿ペプチド)≧ 80pg/mL または NT-proBNP(脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)≧ 400pg/mL
- Peak VO2(最高酸素摂取量)≦ 基準値の80%
(参考:EFによる心不全の分類、BNP・NT-ProBNPについて)
基本的には慢性心不全が急性増悪し、呼吸循環機能や日常生活能力の低下を来した方が対象となります。
「慢性心不全」という診断名だけでは算定できないことに注意が必要です。
実施する前に、これらの基準を満たしているか必ず確認しましょう。
心臓リハビリの保険適用外の疾患
一方で、以下の疾患や病態では「心大血管疾患リハビリテーション料」は算定できないため、注意が必要です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満
- 脂質異常症
- 心不全ステージ分類A、B
- 不整脈:
いずれも、心不全発症の原因となる病態ですが、これら単独では心臓リハビリの保険適用外となります。
心不全ステージA、B
「心不全ステージA・B」とは、いわゆる心不全になるリスクを有した状態を言います。(参考:心不全のステージ分類について)
実際心不全を発症した場合は「ステージC」となるため、A・Bのリスクの時点では「心大血管疾患リハビリ」の対象とはなりません。ただし、リハビリが必要ないということは全くなく、ステージA・Bの時点で心不全発症を予防する取り組みは非常に大切です。
高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症についても同様のことが言え、このような疾患が「今後の心血管疾患のリスク」になることや、これらを是正していくための取り組みについてお伝えしていくことが心疾患患者さんの減少につながります。
不整脈
心室性期外収縮、上室性期外収縮、血行動態の安定した心室頻拍、心房細動のような不整脈の発症だけでは「心大血管疾患リハビリ」の対象とはなりません。
ただし、発作性心房細動や完全房室ブロック、心室頻拍などで血行動態が不安定となり、「心不全の増悪」をきたし、上記の慢性心不全の基準を満たした場合は、心臓リハビリの対象となります。
回復期リハビリテーションでも「心臓リハビリ」が可能に
令和4年の診療報酬改定における「回復期リハビリテーションを要する状態の見直し」において、以下の項目が新設されました。
- 「急性心筋梗塞、狭心症の発作若しくはその他急性発症した心大血管疾患の発症後又は手術後の状態」を追加
- 算定上限日数は、起算開始日から起算して90日以内
※参照:第516回中央社会保険医療協議会 総会(2022年2月9日)答申:個別改定項目について
なお、回復期で心臓リハビリを実施する場合は、「心大血管リハビリテーション料に係る届出」を行っている保険医療機関であることが必要です。
これまでの回復期リハビリーションを要するといえば、脳血管疾患、整形疾患、廃用症候群が主で、心疾患の患者さんが転院しにくい状況にありました。急性期病院で心臓リハビリを実施しても、その後にリハビリを継続できる病院が少なく、リハビリが不十分なまま自宅退院されるケースや、急性期病院で入院期間が遷延するケースが多くありました。
今回の診療報酬改定により、「心臓リハビリ」が回復期リハビリの対象疾患の1つとして普及し、心疾患患者さんに充実したリハビリが提供できる体制が早期に整備されることが望まれます。
心臓リハビリの医療保険の適用のまとめ
- 「心大血管疾患リハビリテーション」の対象となる疾患についてまとめました。
- 心疾患すべてで算定できるわけではないため、対象疾患について知っておく必要があります。
- 回復期でも「心臓リハビリ」が可能になり、今後の普及に期待しています。
- この記事の1つでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
参考 ・上月 正博:心臓リハビリテーション 第2版.医歯薬出版株式会社.2019 ・PT-OT-ST.NET:心大血管疾患リハビリテーション料|令和4年 診療報酬改定情報
コメント
はじめまして。いつも参考にさせていただいています。
質問ですが、慢性心不全は算定可能ですが、
「急性心不全」も算定可能なのでしょうか?
また、BNPの測定は必要なのでしょうか?
にゅうさん、はじめまして。
ブログ更新を休んでいて、記事へのコメントお返事が大変遅くなり、申し訳ありません。
ご質問に関してですが
【急性心不全でも算定可能か】→心臓リハビリの対象疾患の中に「急性心不全」は含まれないため、算定できません。急性心不全に至った病態に合わせて、対象疾患の中から適切な病名を選択していただく必要があると思います。
【BNPの測定は必要か】→慢性心不全の増悪で心臓リハビリを算定する場合は、EFまたはBNP、Peak VO2のいずれかが基準を満たしている必要があります。すべて満たしていなくてもいいため、BNPは必ずしも必要ではないと思います。
十分な回答になっていないかもしれませんが、貴重なご質問ありがとうございました。今後とも当ブログをよろしくお願いいたします。