血液検査のパニック値|Glu,K,Hb,Plt,PT-INRについて解説

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パニック値とは

パニック値とは「生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値」と定義されています。

つまり、検査値が基準値から明らかに逸脱していて、ただちに報告し、緊急に対応する必要がある状態です。

「パニック値」は日本独自の呼称で、一般的には「クリティカルバリュー(critical value)」「緊急異常値」「緊急報告検査値」などの呼称があります。

パニック値の基準

パニック値の項目および設定値に統一された基準はなく、診療科・医療安全管理部門と協議のうえ、機関の状況に応じて個別に設定されています。

ぴんころ
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「パニック値」は医療機関ごとに違うんですね。

その理由は、これは施設の規模や機能、急性期や慢性期、入院または外来によって臨床から必要とされるものが異なるからです。
また、患者さんの背景因子などによって、同じ値でもパニック値として報告するべきか判断が変わる場合があるため、一律の基準を設定できないというのが現状で、施設ごとに関係者で話し合って整理していのが望ましいとされています。

パニック値として優先して設定されるべき5項目

2024年12月、日本医療安全調査機構は、血液検査パニック値が関与していた死亡事例の分析を実施し「医療事故の再発防止に向けた提言」を公表しました。

その中で、臨床状況に応じて閾値を検討し、優先的にパニック値を設定すべきとされたのは以下の5項目です。

  • Glu:グルコース、血糖値
  • K:カリウム
  • Hb:ヘモグロビン
  • Plt:血小板
  • PT-INR:プロトロンビン時間国際標準比
ぴんころ
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それぞれの項目についてパニック値となる基準値と、どのような危険があるについてみていきましょう!

なお、基準値は日本臨床検査医学会が公表している、臨床検査「パニック値」運用に関する提言書(2024年改定版)の数値を記載しています。

Glu(グルコース)

血液検査のGlu(グルコース)とは、血液中のブドウ糖の量を測定する検査で、血糖値の検査とも呼ばれます。

基準値は空腹時で約70~100mg/dLですが、パニック値の基準となるのは以下の数値です。

Glu低値50mg/dL

  高値350mg/dL(外来)・500mg/dL(入院)

血糖値は、高すぎても低すぎても問題となります。

著しい低血糖では、意識障害や昏睡などの重篤な症状を起こし、命に危険が及ぶ可能性があるため、迅速な対応が必要です。

著しい高血糖では、糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群などの合併症を引き起こす危険があり、悪化すると呼吸困難や吐き気、嘔吐、腹痛、意識障害など症状が起こります。

K(カリウム)

血液検査のK(カリウム)は、血清カリウム濃度を測定する生化学検査で、基準値は3.5~5.0mEq/Lです。

カリウムのパニック値は以下の通りです。

K低値1.5mmol/L

 高値7.0mmol/L

重度の低カリウム血症では、脱力や麻痺、呼吸困難感、不整脈などを認める場合があります。

また、重度の高カリウム血症は、致死的な不整脈が生じ心停止に至る危険があります。

前述の日本医療安全調査機構の調査においても、死亡に至った過程で血液検査パニック値が関与していた対象事例 12 例中、「Kがパニック値として検出された事例は5例あり、そのうち4例で致死的な不整脈の出現を認めた」と報告されています。

ぴんころ
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致死性の不整脈は生命に直結するので、特に注意が必要ですね。

Hb(ヘモグロビン)

血液検査のHb(ヘモグロビン)は、血液中の赤血球に含まれる血色素の量を測定する検査です。

Hbの基準値は「男性:13.1~16.3g/dL」「女性:12.1~14.5g/dL」で、パニック値の参考値は以下の通りとなります。

Hb低値5g/dL

  高値20g/dL

Hbが低値の場合、貧血と判断されます。

体内のHbが少なくなると、細胞に酸素が行き渡りにくくなるため、頭痛や疲労感、めまい、息切れなどの症状が表れます。

Hb5~7g/dL未満は重症貧血とされ、輸血が検討されるレベルです。

Hbが高値の場合、多血症脱水が疑われます。多血症の場合は、頭痛、めまい、息切れ、疲労感、手足のしびれ、腕や足のむくみなどの症状が出現します。

Plt(血小板)

Plt(血小板)は、出血したときに血液を固める成分であり、検査によって血管からの出血傾向や血栓の危険性を把握できます。

Pltの基準値は、一般的に15万~45万/μLとされており、パニック値は以下の通りです。

Plt低値3万/μL

  高値100万/μL

血小板が減少すると、出血しやすくなる、出血が止まりにくくなるなどの症状が現れます。

著しく減少すると、皮下出血による点状出血や紫斑、鼻出血、口腔内出血など、出血傾向が特に強くなるため注意が必要です。

一方、血小板の著しい増加は「血小板増多症」と診断され、血栓ができやすくなる可能性があります。また、血小板が多すぎて正常な働きが出来なくなり、反対に出血しやすくなるケースもあります。

PT‐INR(プロトロンビン時間国際標準比)

血液検査のPT‐INR(プロトロンビン時間国際標準比)とは、血液の凝固能を調べる検査です。

血液に試薬を添加し、血液が固まるまでの時間である「PT(プロトロンビン時間)」を国際的な基準と比較して偏差を補正した値が「PT‐INR」で、基準値は1.0となります。

つまり、PT-INRが高くなればなるほど、血液が固まるまでに時間を要するということを示しており、パニック値は以下の通りです。

INR:高値2.0(ワルファリン治療時は4.0

通常は2.0以上がパニック値となりますが、ワルファリン服用中の方は、70 歳未満では PT-INR2.0~3.0、70 歳以上では PT-INR 1.6~2.6 でのコントロールが推奨されているため、4.0以上がパニック値の参考値となっています。

なお、前述の日本医療安全調査機構の調査において、死亡に至った過程で血液検査パニック値が関与していた対象事例 12例中PT-INR がパニック値であった事例は2例あり、脳出血に至ったと報告されています。

ぴんころ
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HbやPlt、PT‐INRなど血液や出血に関連する項目も、リスク管理に欠かせないんですね!

パニック値に関するその他の提言

日本医療安全調査機構の「血液検査パニック値に関する5つの提言」では、パニック値の項目と閾値の設定のほかに、以下が提言されています。

パニック値の報告

  • パニック値は、臨床検査技師から検査をオーダーした医師へ直接報告することを原則とする
  • 臨床検査部門は報告漏れを防ぐため報告したことの履歴を残す

パニック値への対応

  • パニック値を報告された医師は、速やかにパニック値への対応を行い記録する
  • 医師がパニック値へ対応したことを組織として確認する方策を検討することが望まれる

パニック値の表示

  • パニック値の見落としを防ぐため、臨床検査情報システム・電子カルテ・検査結果報告書において、一目で「パニック値」であることがわかる表示を検討する

パニック値に関する院内の体制整備

  • パニック値に関する院内の運用を検討する担当者や担当部署の役割を明確にし、定期的に運用ルールを評価する体制を整備する
  • 決定した運用ルールを院内で周知する
ぴんころ
ぴんころ

医療機関ごとに「パニック値」に対する報告や対応をしっかりと整備して、スタッフ全員で事故を防止するために取り組むことが重要なんですね!

パニック値に関してのまとめ

  • 血液検査のパニック値に関してまとめました。
  • 血液検査のデータを確認する際に、日頃から「パニック値」を意識することで事故を未然に防ぐことにつながります。
  • それぞれの勤務先の「パニック値に関するルール」に従い、適切に対応することが重要です。
  • 医療スタッフ1人1人が正しい知識と責任を持ち、リスク管理することが事故防止になると考えます。
  • 最後までお読みいただきありがとうございました。この記事の内容が少しでも参考になれば幸いです。
参考
・日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター):医療事故の再発防止に向けた提言 第20号.血液検査パニック値に係る死亡事例の分析(2024年12月)
・日本臨床検査医学会:臨床検査「パニック値」運用に関する提言書(2024年改定版)
・日本臨床検査医学会:【別表】クリティカルバリュー(通称「パニック値」)の例

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