血液サラサラ薬とは
「血液をサラサラにする薬」という言葉は、多くの方が聞いたことがあるかもしれません。
この薬は文字通り、血液をサラサラに保ち、血の固まり(血栓)が出来るのを防ぐ役割をしています。
「血液サラサラ薬(抗血栓薬)」は、「抗血小板薬」と「抗凝固薬」に分けられます。
「血液サラサラの薬」とまとめられていますが、実は2種類に分けられていて、その中にも多くの薬の種類があるんですね。
この記事では、これらの薬について以下のことが分かります。
- 血液サラサラ薬の種類と名前
- 抗凝固薬と抗血小板薬の違いについて
- 血液サラサラ薬を飲む必要がある人は?
- 血液サラサラ薬を飲んでいる人が注意すること
「抗凝固薬」や「抗血小板薬」を病院で処方されている方や、ご家族が服用されている方、またはコメディカルなどの医療関係者の方に読んでいただきたい内容です。
血液をサラサラにする薬一覧
抗血小板薬
抗血小板薬は、出血した時に血を止める役割がある「血小板」を血管壁に集まりにくくすることで、血液をサラサラにする薬です。
代表的な薬は「アスピリン(バイアスピリン®)」ですが、上記のように抗血小板薬には多くの種類があります。
抗凝固薬
抗凝固薬は「血液を凝固させない」すなわち「固まらせにくくする」薬です。
この中で最も有名なのは「ワルファリン」だと思います。
ワルファリンは最も古くから使用されている抗凝固薬ですが、2011年以降「ダビガトラン(プラザキサ®)」「リバーロキサバン(イグザレルト®)」「アピキサバン(エリキュース®)」「エドキサバン(リクシアナ®)」の4種類が追加されました。
ワルファリンを除いたこの4つの薬剤を合わせて「DOAC(直接作用型経口抗凝固薬:direct oralanticoagulants)」と呼びます。
抗凝固薬と抗血小板薬の違い
抗凝固薬と抗血小板薬があることは分かりました。
では、どちらも「血液をサラサラにする」目的の薬なら、違いは何ですか?
違いは、「血栓ができる過程のどの部分に作用する薬か」ということです。
これにより薬を使用する適応疾患も変わってきます。詳しく説明しますね。
止血のしくみと血栓
血液中には出血に対する止血機構として「血小板」と「凝固因子」というものがあります。
血管が損傷すると、まず血小板が凝集し血小板血栓を形成して損傷部位を塞ぎます(一次止血)。そして、凝固因子がフィブリンと呼ばれる膜でそれを補強します(二次止血)。
通常は出血を止めるために血液が固まる「止血」という体の防御反応が、通常は起こらない血管の中で起こってしまい形成されるものを「血栓」といいます。
抗血小板薬
血小板は血流速度が速い「動脈」の血栓に関与します。
高血圧や高脂血症、糖尿病などで動脈硬化が進むと、血管の内壁にコレステロールなどが溜まり、「プラーク」という老廃物の膜のようなものができます。そのプラークが破けると止血機構がはたらき、血小板が集まって固まり、血栓が形成されます。
これらの動脈で起こる血栓形成を抑制するのが「抗血小板薬」です。
抗凝固薬
一方、抗凝固因子は血流速度が遅い「静脈」の血栓形成に関与します。
不整脈や心不全など、何らかの理由で血液の流れが遅くなると血液凝固因子が働きやすくなり、フィブリンが作られることで血栓が形成されます。このフィブリンの生成を防ぐのが「抗凝固薬」です。
- 血小板は「一次止血」、抗凝固因子は「二次止血」に関与
- 動脈の血栓には血小板が関与→「抗血小板薬」が有効
- 静脈の血栓には凝固因子が作用→「抗凝固薬」が有効
どんな人が血液サラサラ薬を飲むの?
抗血小板薬
抗血小板薬は上述した通り、主に「動脈」で起こる血栓に対して使用されます。対象となるのは、動脈硬化が原因となる以下の疾患です。
- 脳梗塞後:アテローム血栓性脳梗塞など
- 冠動脈疾患:狭心症、心筋梗塞
- 末梢動脈疾患:下肢閉塞性動脈硬化症など
抗血小板薬は脳梗塞や心筋梗塞の心血管イベントが起こるのを予防する効果があります。
【補足情報】抗血小板薬は2剤で併用されることがあり、これを「DAPT(dual antiplatelet therapy)」といいます。
作用機序の異なる抗血小板薬(例;アスピリン+クロピトグレルなど)を併用することで、その治療効果を高める目的で行われます。
抗凝固薬
抗凝固薬は、血液が停滞し「静脈」で生じる血栓に対して使用されます。対象となるのは、以下のような疾患です。
- 不整脈:心房細動など
- 静脈血栓症:肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症など
- 心臓の手術後:機械弁置換術後など
動脈硬化が原因で起こる「アテローム血栓脳塞栓症」や「ラクナ梗塞」の予防には抗血小板薬が使用されますが、心房細動による脳梗塞「心原性脳塞栓症」の予防には「抗凝固薬」が用いられます。
血液サラサラ薬を飲んでいる方が気をつけること
出血
抗血小板薬や抗凝固薬を服用されている方は、止血する機能が低下していますので、当然ですが血が止まりにくなります。
少しぶつかっただけで皮膚の内出血(あざ)が出来てしまいますし、鼻血、歯茎からの出血、血痰、血尿などのも注意が必要です。
また、脳出血や消化管出血などの重篤な症状が起こることもあるため、決められた量を服用することがとても大切です。
正しく服用していても出血が続くときや、多量の出血の場合は主治医に相談しましょう。
食べ物
抗凝固薬の「ワルファリン」を服用されている方は、ビタミンKが多く含まれる食品の摂取を控える必要があります。
その理由は、ワーファリンは「ビタミンKの働きを阻害して、血液が固まるのを防ぐ薬」だからです。
ちなみに、他の抗凝固薬(DOAC)はビタミンKを介さずに直接凝固因子の働きを抑制する薬のため、食事の制限はありません。
検査や手術、歯科治療のとき
抗血小板薬・抗凝固薬を服用されている方が、内視鏡検査や抜歯、手術の予定がある場合は、早めに医師と相談する必要があります。
手術の程度によって、抗血小板薬や抗凝固薬を休む場合や、そのまま薬を飲み続ける場合があります。
医療機関を受診する時には、これらの薬を飲んでいることを伝えた方がいいため、自分がどの薬を服用しているのか確認しておきましょう。
血液サラサラ薬は飲み続けないといけない?
血液サラサラの薬は、基本的に「血栓が出来るリスクが高い方」に処方される薬なので、自分の判断で勝手に中断してしまうのは危険です。
出血などの副作用はありますが、医師は血液検査等を行い、適切な薬の量を確認して処方されていますので、決められた量をきちんと飲み続けることが重要です。
血栓形成による「脳梗塞」や「心筋梗塞」などの重篤な疾患を未然に防ぐためにも、正しい服用を心がけましょう。
血液サラサラ薬についてのまとめ
- 血液をサラサラにする薬には「抗血小板薬」と「抗凝固薬」があります。
- これらの薬は、予防したい疾患に応じて使い分けられています。
- 正しい服用を心がけ、血栓を予防しましょう。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考 ・循環器病研究復興財団:知っておきたい循環器病あれこれ146「血栓をどう防ぐか…抗血栓療法の最前線」 ・ハートナーシング 35(8): 720-725, 2022. ・ブレインナーシング 38(4): 549-553, 2022.
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