サルコイドーシスとは
サルコイドーシスとは、原因不明の全身性疾患です。
「サルコイド」はラテン語で「肉のようなもの」という意味であり、「肉芽腫」が全身の様々な臓器にできる疾患を「サルコイドーシス」といいます。
サルコイドーシスは厚生労働省が定める「特定疾患(指定難病)」の一つです。慢性炎症性疾患であり、自然寛解することもありますが、一部の症例で進行性、難治性の経過をたどる注意すべき疾患です。
日本におけるサルコイドーシスの特徴
- 患者数:14,950人(令和元年度医療受給者証保持者数)
- 好発年齢:20歳代と50歳代以降(2峰性に多い)。近年は高齢者の発症が増加傾向。
- 性差:女性が男性の2倍。男性は若年者、女性は高齢者に多い傾向。
症状
サルコイドーシスは全身に起こる疾患のため、臨床症状は多種多様であることが特徴です。
症状は、侵された各臓器で生じる「臓器特異的症状」と、侵された臓器とは無関係に起こる「全身症状」の大きく2つに分けられます。
各臓器の症状(臓器特異的症状)
サルコイドーシスの症状が起こりやすい臓器は、「肺」「目」「皮膚」「心臓」などです。
一つずつ特徴を確認していきましょう!
肺
呼吸器病変は、サルコイドーシスの臓器病変として最も頻度が高く、日本の報告では、全体の86%が呼吸器病変を有していたとされています。
呼吸器の病変は主に4つの部位に生じ、それぞれの症状は以下の通りです。
- 縦隔・肺門リンパ節:自覚症状は乏しい
- 肺野:咳嗽、労作時呼吸困難感
- 気道:咳嗽、喘鳴
- 胸膜:胸水貯留(右側に多い)、胸痛
縦隔・肺門部のリンパ節腫大では自覚症状がないことが多く、検診などで偶然発見されることが多いとされています。また、胸部X線でびっくりするほどの陰影があっても、あまり自覚症状がないのがサルコイドーシスの肺病変の特徴です。
肺サルコイドーシスは約 2/3 の症例で自然寛解しますが、10~20%は慢性または進行性の経過を辿り、症状が再燃する場合もあります。
目
サルコイドーシスの眼病変は、日本では肺病変に次いで多く、55~79%程度にみられます。
サルコイドーシスの主な眼病変は「ぶどう膜炎」です。ぶどう膜炎とは、眼内組織であるぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)や網膜、強膜、時に視神経などに、炎症細胞浸潤が生じている状態の総称です。
【自覚症状】
- 霧視(目がかすんで見えること)
- 視力低下
- 飛蚊症(視界に黒い虫のような物が動いて見える症状)
- 充血
- 眼痛
- 羞明(普通の明るさでもまぶしく感じ、目を開けているのがつらい症状)
2004 年の日本の全国患者調査では、これらの眼症状が契機でサルコイドーシスが発見される場合が最も多かったと報告されています。
皮膚
サルコイドーシスの皮膚病変は、「特異的病変(皮膚サルコイド)」、「瘢痕浸潤」、「非特異的病変」の3つに分けて考えられています。
日本のサルコイドーシスの皮膚病変の中では、瘢痕浸潤が最も多いのが特徴です。
- 特異性病変(皮膚サルコイド):顔面や四肢に好発する粟粒大から指頭大までの紅色隆起性病変(赤い斑点)である「結節型」が多い
- 瘢痕浸潤:陳旧性の外傷瘢痕(昔できた傷の痕)が赤みを帯びたり、隆起したりする。膝に見られることが多い。
- 非特異性病変:下肢にできる結節性紅斑。ほとんどは早期に消える。
皮膚病変では、通常強い自覚症状はないため、主として美容的な見地から治療が選択されます。とくに顔面や手~前腕の露出部位の皮疹や、多発性あるいは広範囲に及ぶ皮疹では、全身ステロイド治療などが考慮されます。
心臓
サルコイドーシスによる心臓の病変も比較的頻度が高く、日本人のサルコイドーシスの20%以上に心臓病変があるとされています。
肉芽腫性炎症の存在部位や程度により、心臓サルコイドーシスに伴う症状としては、刺激伝導系の障害に伴うもの、心筋障害に伴うものが考えられます。
- 刺激伝導系の障害:房室ブロックによる徐脈で、めまいや失神、時には突然死も起こりうる
- 心筋障害:心室性の不整脈による動悸や息切れ(持続性心室頻拍による突然死も起こりうる)。また、心機能低下(収縮機能障害、拡張機能障害)により心不全症状を呈する場合がある。
高度徐脈の場合は、ペースメーカー植え込みの適応となることもあります。
心不全の症状としては、体液貯留増加による浮腫(圧痕性)、咳嗽、呼吸困難や、心拍出量低下による乏尿、全身倦怠感、不眠、抑鬱、ふらつきなどが挙げられます。
日本のサルコイドーシスの死因で最も多いのは「心臓病変によるもの」ですので、定期的な検査や早期からの適切な治療が重要です。
神経・筋肉
サルコイドーシスの神経・筋病変は、サルコイド病変の出現する部位により「中枢神経病変」、「末梢神経病変」、「筋病変」の3つに大別されます。
- 中枢神経病変:脳実質、髄膜、脊髄など様々な部位に病変の可能性があり、運動麻痺や感覚障害、痙攣など多彩な症状が考えられます。頻度が高いものとして、下垂体に腫瘤ができて起こる「尿崩症」や、脊髄の病変に伴う「痛み」が挙げられます。
- 末梢神経病変:脳神経障害の頻度が高く、中でも「顔面神経麻痺」や「視神経炎」が多い
- 筋病変:無症候性のものもあるが、症候性は「腫瘤型」と「ミオパチー型」に分けられる。日本では約7割が腫瘤型で、筋肉内に腫瘤を触知する。ミオパチー型では腫瘤は触知せず、筋力低下や筋委縮を呈する。
骨・関節
日本における最近の疫学調査では、関節痛を訴えたサルコイドーシスの症例は全サルコイドーシス患者の 1.5%であり。関節を含む骨病変の頻度は 0.7%であったと報告されています。
一般的に、骨病変がサルコイドーシス病変として初発することは稀であり、肺や目、皮膚などの特徴的な病変を形成した数年後に出現することが多いといわれています。
骨病変の罹患部位では、四肢末端とくに手足の基節骨と中節骨が最も多く、手指の疼痛や腫脹を呈します。
関節の症状としては、左右対称性に主として四肢や体幹部の比較的大きな関節の炎症性関節炎を伴い、関節痛、関節腫脹などを認めます。
「サルコイドーシス」は、本当に様々な症状が起こるんですね。驚きです。
全身におこる症状(非特異的全身症状)
サルコイドーシスで全身に起こる症状としては、以下のようなものがあります。
- 疲れ、息切れ
- 体重減少
- 耳鳴り、難聴
- 痛み:胸痛、関節痛、頭痛、背部痛、筋肉痛など
- 発熱:微熱が続く
これらの症状は臓器障害とは無関係に起こり、検査所見に反映されないために見過ごされがちですが、症状が強い場合は患者さんのQOL(生活の質)が著しく損なわれる可能性があるため、知っておくことが必要です。
診断基準
サルコイドーシスの診断
サルコイドーシスの診断は、「組織診断群」と「臨床診断群」の2つに分けられます
【組織診断群】
いずれかの臓器の組織生検において乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫の証明があって、十分な鑑別診断がなされいる場合にサルコイドーシスと診断される
【臨床診断群】
病理組織による証明がえられていない場合には「A. 臨床症状のうち 1 項目以上」、「B. 特徴的検査所見の 5 項目中 2 項目以上」「C. 呼吸器、心臓、眼の3臓器中2臓器において臓器病変を強く示唆する臨床所見を認め」「D. 鑑別診断が十分になされている」場合、サルコイドーシスと診断
臨床診断群の「A」の臨床症状とは、上記でお示ししたような呼吸器、眼、皮膚、心臓、神経を主とする全身のいずれかの臓器の臨床症状、あるいは臓器非特異的全身症状を指します。
また、「B」の特徴的検査所見の5項目は以下の通りです。
- 両側肺門縦隔リンパ節腫脹(Bilateral hilar-mediastinal lymphadenopathy:BHL)
- 血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値
- 血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)高値
- 「67Ga シンチグラフィ」または「18F-FDG/PET」における著明な集積所見
- 気管支肺胞洗浄液のリンパ球比率上昇又はCD4/CD8 比の上昇
組織生検が行われない場合には、多くの診断条件を満たす必要があるのですね。
重症度分類
サルコイド―シスにはⅠ~Ⅳの重症度分類があり、数字が大きいほど重症です。
重症度は「罹患臓器数」「治療の必要性の有無(全身ステロイド治療,全身免疫抑制剤治療)」「サルコイドーシスに関連した各種臓器の身体障害の認定の程度」の3項目の合計スコアによって判定されます。
なお、サルコイドーシスの重症度IIIとIVの場合は、公費から医療費補助を受けることができます。
治療
サルコイドーシスは原因不明であり、根治療法といえるものはないのが現状です。
症状が軽微で自然改善が期待される場合には無治療で経過観察とされますが、臓器障害のために日常生活が障害されている場合や、将来の生命予後・機能予後の悪化のおそれがある場合には積極的な治療が行われます。
現在行われている治療としては、肉芽腫性炎症を抑制する目的で「副腎皮質ステロイド薬」や「免疫抑制薬」などの対症療法が行われています。
全身性の薬剤が必要な症例においては「ステロイド」が第一次選択薬となりますが、ステロイドは長期で使用すると種々の副作用(骨粗鬆症、糖尿病、肥満、易感染性など)があることが知られています。
そのため、難治症例や再発症例に対して、第二次選択薬として免疫抑制薬(メトトレキサート、アザチオプリンなど)が使用される場合もあります。
予後
サルコイドーシス患者の予後は病変の広がりや程度によって異なり、臨床経過は極めて多様で「短期改善型」、「遷延型」、「慢性型」、「難治化型」の4つに分けられます。
短期改善型
比較的短期間(ほぼ2年以内)に症状が改善するものが「短期改善型」で、症状に乏しい症例では無治療で改善するものが多いのが特徴です。
遷延型
症状短期間では改善せず、臓器障害や全身症状の遷延化がみられるもの、具体的には2年から5年の経過した状態を「遷延型」といいます。
慢性型
一般に発症から5年の時点で活動性病変を有する場合は「慢性型」とされます。この場合、数十年の経過になるものも稀ではありませんが、慢性化した場合であっても、その後寛解することもあり、必ずしも進行性ではないということが特徴です。
難治型
症状がの進行に伴いQOLが著しく低下し、不可逆的な臓器障害を生じた場合「難治型」に分類されます。
治癒の割合と死亡原因
サルコイドーシス患者の約2/3は自然寛解しますが、残りの約1/3は慢性・進行性の経過をたどると言われています。
また、サルコイドーシスの死亡原因は、心病変と肺病変による場合がほとんどです。日本では、サルコイドーシスの死因の77%は心病変によるものと報告されています。
サルコイドーシスについてのまとめ
- 厚生労働省の指定難病の一つに挙げられている「サルコイドーシス」についての情報をまとめました。
- サルコイドーシスは全身性の疾患であり、症状・経過・予後ともに多様なのが特徴です。
- 臨床でサルコイドーシスの患者さんと関わる中で、臓器障害に伴う症状だけではなく、全身性の症状にも目を向けることが重要だと思いました。
- この記事の内容が一つでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
(参考) ・日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会:サルコイドーシス診療の手引き 2020 ・難病情報センター:サルコイドーシス(指定難病84) ・滝美波, 矢崎善一:心臓サルコイドーシス.診断と治療 109(4): 543-550, 2021.
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