HErEF心不全治療の「Fantastic 4」とは?

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ぴんころ
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心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。

最近循環器の研修会に参加すると良く耳にする「Fantastic4(ファンタスティック・フォー)」についてお伝えします。

この記事では以下のことが分かります
  • HFrEF治療薬の「Fantastic 4」について
  • 「2021年慢性・急性心不全診療ガイドライン」におけるHFrEFの治療薬
  • Fantastic 4 を導入する時のリハビリ実施上の注意点について

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Fantastic4とは

近年、 LVEFの低下した心不全 (HFrEF)心不全患者さんの治療薬は大きく変化しています。(参考:LVEFによる心不全の分類

以下でも詳しくお伝えしますが、2021年にフォーカスアップデートされた「急性・慢性心不全診療ガイドライン」で、HFrEFに対する薬物および非薬物療法のあらたなエビデンスが報告され、心不全治療アルゴリズムが改訂されました。

これまでのHFrEFの治療薬といえば、ACE 阻害薬またはARB、β遮断薬、MRA」が基本的な治療薬でした。これがβ遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4種類に変わりつつあります。この4種類の薬が「Fantastic 4」と呼ばれています。

Fantastic 4のイメージ図(筆者作成)

ガイドラインでは以下のことが示されています。

✔ 予後改善が示されているACE阻害薬/ARB+β遮断薬を初回診断時から,忍容性がある限り最大限用いること.これらにMRAを追加した薬物療法を HFrEFに対する基本治療薬とする.

✔ 効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える.また,ACE阻害薬/ARBではなく,ARNIの初期導入も考慮する.

✔ 糖尿病の有無にかかわらず,心不全悪化もしくは心血管死の複合イベント抑制を期待してSGLT2阻害薬の導入も考慮するが,SGLT2阻害薬の心不全治療における位置づけは更なる検証が必要である.

「2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」より引用

このようにこれまでの基本的治療薬に加えてARNISGLT阻害薬が基本治療薬に仲間入りしました。

実際、臨床で心不全患者さんと関わる中で、ARNIやSGLT阻害薬はすでに多くの患者さんに使用されています

2021年に追加された3種類のHFrEF治療薬

2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」において追加された、HFrEF治療薬3つを紹介します。

  1. イバブラジン(I fチャネル阻害薬、HCNチャネル遮断薬)
  2. サクビトリルバルサルタン(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:ARNI
  3. SGLT2阻害薬

イバブラジン(商品名:コララン®)

イバブラジンは洞結節のHCNチャネルを選択的に遮断する薬剤で心拍数を低下させる効果があります。心収縮能血圧には影響を与えずに心拍数を下げるという特徴があります。

基本治療薬による治療を行っても症候性で、洞調律かつ75拍/分以上の心拍数のHFrEF症例にイバブラジンの導入が考慮されます。

サクビトリルバルサルタン、ARNI(商品名:エンレスト®)

サクビトリルによるネプリライシン阻害作用と、バルサルタンによるAT1受容体遮断作用によって、体液量と血圧が低下することで心負荷を軽減し、心不全による症状・進行を抑制する薬剤です。

ガイドラインでは、ACE 阻害薬(または ARB)、β遮断薬、MRA がすでに投与されている HFrEF症例において、症状を有する(または効果が不十分)場合,ACE 阻害薬(または ARB)からの切替えを行うことが推奨されています。

SGLT2阻害薬(商品名:フォシーガ®、ジャディアンス®)

SGLT2阻害薬の心不全に対する効果としては、利尿効果や肥満改善による心負荷の軽減や、交感神経過剰興奮の低減による血圧上昇の緩和、慢性炎症の低減や酸化ストレスの低減による心臓リモデリング抑制などが挙げられています。

また、2019年のDAPA-HF試験では、糖尿病合併の有無とは無関係に、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ®)がHFrEF症例の心不全イベントを抑制することが国際レベルの大規模ランダム化比較試験(RCT)により初めて証明されています。

ガイドラインでは、最適な薬物治療が導入されているにも関わらず症候性で、収縮能の低下した(LVEF ≦ 40%)慢性心不全患者に対し、心不全悪化および心血管死のリスク低減を考慮してダパグリフロジンまたはエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス®)を投与することが推奨されています。

Fantastic4導入時に気をつけること

イバブラジン

イバブラジン:副作用としては徐脈(8%)、光視症(2.8%)、霧視(0.4%)、房室ブロック(0.6%)、心房細動(0.3%)、心電図QT延長(0.2%)が挙げられています。

リハビリ介入時は、まず「安静時の時点で徐脈になっていないか」を確認します。「運動に伴う心拍応答が正常か」も重要なポイントです。徐脈に伴うめまいやふらつき症状に注意して、バイタルを適宜測定しながらリハビリをすすめます。また、心電図で房室ブロック、心房細動、QT延長の出現がないかも確認しましょう。

光視症(閃光が視界に一瞬走ったように見える状態)や霧視(目がかすむ)などの視覚症状は、転倒リスクの増大につながるため、服薬が開始された後は、患者さんに症状の有無を確認しておくと安全だと思います。

サクビトリルバルサルタン(ARNI)

サクビトリルバルサルタン(ARNI): 様々な副作用が報告されていますが、リハビリと関連がありそうなものとしては、低血圧(8.8%)、 高カリウム血症(4.0%)、低血糖横紋筋融解症などが挙げられます。

低血圧は歩行時のふらつきや失神の原因となるので、十分な注意が必要です。エンレスト導入後のリハビリ介入時は、「これまでの血圧と比較してどの程度低下しているのか」ということや、「起立や歩行を行っても血圧が低下しないか」などを確認の上、離床を進めます。

高カリウム血症不整脈の誘発脱力などの原因になるため、服薬開始後の血液所見についても確認してリハビリ介入しましょう。

低血糖横紋筋融解症は、早期に発見し適切な処置を行う必要があるため、リハビリに従事する立場としても、このような副作用があるということを知っておくと早期発見の一助になるのではと思います。

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬:副作用として低血糖腎盂腎炎脱水正常血糖のケトアシドーシスなどが挙げられています。

低血糖のリスクがあるため、日々の血糖値について確認が必要です。また、血糖値が低くなりやすい食直前(昼食前)のリハビリ介入は避けましょう。

脱水症状にも注意が必要です。特に高齢者は気づかないうちに脱水を引き起こしていることが少なくないため、血液所見と合わせて身体所見自覚症状にも注意を払って、変化に気づくということが重要となります。

その他のHFrEF治療薬についての運動療法実施上の注意点は、以下の記事をご参照ください。

(参考:β遮断薬の効果と運動中のリスク管理ACE阻害薬・ARBの効果と運動中のリスク管理

Fantastic4についてのまとめ

  • HFrEF症例に対する新たな基本的治療薬である「Fantastic 4」についてお伝えしました。

Fantastic 4β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬

  • 治療薬は研究により日々進化しているので、知識を随時更新していかなければなりません。心臓リハビリ実施時のリスク管理の観点からも、薬の作用機序や副作用についてある程度知っておく必要があると思います。
  • 最後までお読みいただきありがとうございました。

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