こんにちは、心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
今回のテーマは、心不全治療には欠かせない薬「β遮断薬」についてです。
心不全患者さんに使用される薬剤はとても多く、その名称や名前を覚えるのも一苦労です。
さらに、心臓リハビリで運動療法を実施する際のリスク管理として、これらの効果と副作用を把握しておくことは必須です。
今回はβ遮断薬の以下のことについて確認していきます。
β遮断薬の効果・使用方法
慢性心不全に対する効果とエビデンス
β遮断薬の心臓に対する作用は、心拍数の減少、心収縮力の抑制です。
これにより、心筋酸素消費量を減らすことができ、心臓への負担を軽減できます。
β遮断薬は ”心臓を休ませる薬”
心筋を保護しながら心不全の予後を改善させる
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)において、β遮断薬の「有症状の患者に対する予後の改善を目的とした投与」はエビデンスレベルAで、有効性が広く認められています。
また、「無症状の左室収縮機能不全患者に対する投与」、「頻脈性心房細動を有する患者へのレートコントロールを目的とした投与」はエビデンスレベルBで、こちらも有効性が示されています。(参考:心房細動のレートコントロールについて)
β遮断薬が導入される時期と漸増方法
β遮断薬開始のタイミングは心不全急性増悪からの回復期で、入院中が望ましいとされています。
体液貯留の兆候がなく、患者の状態が安定していることを確認したうえで、ごく少量より開始されます。
血圧や心拍数、心不全悪化の徴候(体重増加,肺うっ血,浮腫など)がないかを見ながら、時間をかけて数日~2週間ごとに段階的に漸増していきます。
β遮断薬の種類と特徴
慢性心不全治療に使用されるβ遮断薬は以下の2種類です。
一般名 | 商品名 |
ビソプロロール | メインテート® |
カルベジロール | アーチスト® |
一般名と商品名がありややこしいですが、どちらも臨床で使われるので、あわせて覚えましょう!
次は、それぞれの特徴について見てきます。
ビソプロロール (メインテート®) | カルベジロール (アーチスト®) | |
β1受容体選択性 | あり | なし |
α受容体遮断作用 | なし | あり |
性質 | 水溶性 | 脂溶性 |
主要な排泄経路 | 腎臓(尿中排泄) | 肝臓(胆汁排泄) |
心拍数低下作用 | 大 | 小 |
血圧低下作用 | 小 | 大 |
投与回数 ※心不全治療に使用される場合 | 1日1回 | 1日2回 |
- β1受容体選択性であるビソプロロール(メインテート®)は、血管や気管に影響を与えず、比較的副作用を抑えることができます。
- α受容体遮断作用のあるカルベジロール(アーチスト®)は血管を拡張させる作用があり、血圧低下作用が大きいです。
- その他、排泄経路や薬剤の投与回数に違いがあります。
<補足:アドレナリン受容体>
- α1受容体:血管収縮、瞳孔散大、立毛、前立腺収縮などに関与
- α2受容体:血小板凝集、脂肪分解抑制のほか様々な神経系作用に関与
- β1受容体:主に心臓に分布し心拍数増加と心収縮力増加に作用
- β2受容体:主に血管や気管に分布し、血管平滑筋や気管支平滑筋の弛緩に作用する
- β3受容体:脂肪細胞、消化管、肝臓、骨格筋に分布し、基礎代謝などに関与
ビソプロロール(メインテート®)の利点
- β1 選択性で呼吸機能などに有意な悪化をきたさないことが知られており、呼吸器系合併症を有する症例にも使用できる
- 心拍数低下の作用が強い
- 半減期が長く、投与回数が1日1回(飲む回数を減らせる)
カルベジロール(アーチスト®)の利点
- 排泄経路が肝臓であり、腎機能を悪化させにくい
- 血圧低下作用が強い
2つの薬剤には、それぞれこのような特徴があり、患者さんの状態や合併疾患によって使い分けられています。
副作用
代表的な副作用は「徐脈」と「低血圧」
心臓を休ませる作用がるため、「心不全の再増悪」にも注意が必要です。
また、その他の副作用として気管支喘息、COPD、PAD、うつ症状の悪化や、低血糖症状がマスクされることがあります。(参考:PAD(抹消動脈疾患)について)
運動中のリスク管理
リハビリで運動療法をするにあたって、基本的には上記の副作用の出現に注意します。
特に、心不全症状が落ち着きβ遮断薬が導入された直後や、投与量が漸増した時には注意が必要です。
リハビリ中、患者さんの自覚症状やバイタルを必ず確認するようにしましょう。
β遮断薬が心拍数と血圧に与える影響は以下に示す通りです。
安静時 | 運動時 | |
心拍数 | ↓ | ↓ |
血圧 | ↓ | ↓ |
β遮断薬には、安静時・運動時ともに心拍数と血圧を下げる効果があります。
そのため、運動前後のバイタルを確認して、β遮断薬導入前とどの程度の差があるのかを把握することが重要です。
低血圧や徐脈が確認された場合は、速やかに主治医に報告し、対応を仰ぐことが必要です。
また、心不全増悪の因子になり得ることや、その他の副作用に関して知っておくことで、心臓リハビリ中の異常に気付く一助になると思います。
まとめ
- 心不全治療に使用されるβ遮断薬についてお伝えしました。
- 作用機序や薬の特徴が分かれば、それが過剰に起こることが副作用なので、リスクについても何となく想像できてくると思います。
- 薬の作用や副作用を正しく理解して、運動中のリスク管理をしっかりと行い、リハビリ中の事故を防ぎましょう。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献 ・長友 祐司:心不全治療薬 β遮断薬.medicina vol.58 no.1 pp.80-84 ・日本心臓リハビリテーション学会編:指導士資格認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.2010 ・日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
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