心房細動は臨床で一番良く遭遇する不整脈ですね。
心房細動と心房粗動、名前は似ていますが病態も治療法も異なります。
2つの違いを理解していきましょう!
病態
心房細動
心房細動は、図のオレンジの部分のように、心房で統一性のない不規則な電気的な興奮が発生し、心房全体が小刻みにふるえることで、心房自体がきちんと収縮できなくなる状態をいいます。
心房細動は、発生からの経過時間や病状により以下のような5つの病型に分類されます。
病型 | 定義 |
はじめて診断された心房細動 | 過去に診断されたことがない心房細動。はじめて心電図で確認されたもの。 |
発作性心房細動 | 治療の有無にかかわらず7日以内に洞調律に復する心房細動 |
持続性心房細動 | 持続が7日を超える心房細動 |
長期持続性心房細動 | 1 年以上継続している心房細動。洞調律維持療法を考慮し得るもの。 |
永続性心房細動 | 洞調律維持療法を考慮しえない心房細動。除細動不可能なもの。 |
心房粗動
心房粗動は、右心房内(図のオレンジの部分)で起こるリエントリーを機序とする不整脈です。
リエントリーとは、電気刺激が決まった回路上を旋回し、常に心筋を興奮させている状態をいいます。
心電図波形
それぞれの心電図波形(Ⅱ誘導)とその特徴は以下の通りです。
- P波が消失:心房が収縮が正確に行われていないことを意味する
- R-R間隔が不規則:脈拍のリズムが一定ではないということ
- f波(細動波)が特徴的:基線が細かく不規則に揺れている
- P波が消失:心房細動と同様に、P波は消失する
- R-R間隔は一定:心房細動と異なり、脈拍リズムの乱れが少ないため発見されにくい
- 鋸歯状のF波(粗動波)が特徴:250~400回/分の頻度で規則正しく現れる
心房細動は小文字のf波、心房粗動は大文字のF波なんだ!
脈のリズムが一定かどうかも違うんですね!
原因
心房細動・心房粗動の原因としては、上記のような疾患が挙げられます。
心房粗動は他の心臓疾患を有している場合が比較的多く、心房細動は基礎疾患が無くても起こることが多いです。
また、上記のような危険因子が多くあるほど、心房細動・心房粗動になりやすいと言われています。
ストレスやコーヒーも危険因子になるんですね!
治療
心房細動
「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」では、心房細動患者の急性期および慢性期の管理として、以下の5段階の治療ステップが提唱されています。
ステップ | 内容 | 目的 |
1:急性期の管理 | 調律維持 心拍数調節 | 血行動態の安定化 |
2:増悪因子の管理 | 生活習慣改善 基礎心疾患の治療 | 心血管病リスクの減少 |
3:脳梗塞リスクの評価 | 高リスク患者への抗凝固療法 | 脳梗塞予防 |
4:心拍数の評価 | 適切な心拍数調節 | 症状改善 左室機能維持 |
5:症状の評価 | 抗不整脈薬 電気的除細動 カテーテルアブレーション 外科治療(メイズ手術) | 症状改善 |
心房細動の治療で、心拍数を調節する目的の治療をレートコントロール、洞調律に戻すための治療をリズムコントロールといいます。以前はこの2つが同列で推奨されていましたが、近年ではレートコントロールの方が優先順位が高くなっています。
心拍数調節に使用される薬物には、β遮断薬、ジギタリス製剤、非ジヒドロピリジン系 Ca 拮抗薬、抗不整脈薬のアミオダロンがあります。この中で、心筋の保護効果や生命予後の改善などの付加価値があり、交感神経の緊張緩和による症状の改善を期待できるβ遮断薬が第1選択薬となっています。
心房細動は進行すると発作性から持続性へ移行、左房径も拡大し、カテーテルアブレーション成績が悪化するため、適応のある症例はタイミングを逃さずアブレーションを積極的に考慮する必要があるとされています。
また、心房細動は、細動中に心房内に生じる血栓によって引き起こされる脳梗塞の予防が大変重要です。心原性塞栓症のリスク評価として「CHADS2 スコア」や「CHA2DS2-VASc スコア」が用いられています。これらの結果や合併疾患などを踏まえて抗凝固療法の方法が選択されます。(参考:心房細動の血栓塞栓リスク評価)
心房粗動
心房粗動で致死的な状況になることは少ないですが、心不全やショック、急性心筋虚血などを合併していれば電気的除細動により速やかに停止させます。血行動態が安定していれば、抗不整脈薬投与あるいは電気的除細動により洞調律へ復帰させる治療が行われます。
洞調律化を目的として、心拍数が極端に少ないケースではペーシング、薬剤抵抗性や再発を繰り返すケースにはカテーテルアブレーションが行われる場合もあります。
心拍数コントロール目的の薬物療法としては、心不全や低心機能の症例に対してジギタリスが汎用されています。また、β遮断薬(ランジオロール)や非ジヒドロピリジン系 Ca 拮抗薬も、心房粗動の心拍数調節療法として有効性が示されています。
また、心房粗動においても、心房細動の抗凝固管理と同様に除細動前3週間および除細動後4週間の抗凝固療法が必要とされてます。
参考文献 ・2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン (日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン) ・心臓リハビリテーション学会編:指導士資格認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.2010 ・全部見えるスーパービジュアル循環器疾患.成美堂出版.2017
他の循環器用語の検索は以下のページで可能です。ぜひ参考にしてみてください。
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