【心リハ用語解説】心臓弁膜症

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この記事では以下の用語を解説します!
  • AS/AR
  • MS/MR
  • PS/PR
  • TS/TR
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心臓の弁の名称

狭窄と閉鎖不全

狭窄はStenosisの頭文字をとって「S」で表されます。弁が病気や加齢などの原因で固くなり、開きにくくなっている状態です。固くて狭い弁の間を血液が通っているイメージです。

一方、閉鎖不全はRegurgitationの頭文字の「R」で表されます。弁が閉まりにくくなり、一度弁を通って流れていった血液が逆流してしまう状態です。

「弁の名称」と「狭窄・閉鎖不全」の頭文字の組み合わせで以下の略語となります。

AS大動脈弁狭窄症
AR大動脈弁閉鎖不全症
MS僧帽弁狭窄症
MR僧帽弁閉鎖不全症
PS肺動脈弁狭窄症
PR肺動脈弁閉鎖不全症
TS三尖弁狭窄症
TR三尖弁閉鎖不全症

※補足:臨床的に多いのは大動脈弁僧帽弁の弁膜症です。以下に病態や治療について簡単に解説します。

AS(大動脈弁狭窄症)

病因:日本では、加齢に伴う大動脈弁尖の変性に基づくASの占める割合が最も大きい

病態:左室流出路にある大動脈弁の狭窄に伴う慢性的な左室への圧負荷。圧負荷により増大する左室壁応力(ストレス)を軽減するための代償機転として左室肥大が起きるが、神経体液性因子の活性化なども加わり、左室肥大の進行、左室線維化の亢進などが生じる。その結果として左室機能障害を生じ、最終的には血行動態の破綻に至る。

予後重症ASは有症候であっても無症候であっても基本的に予後は不良。重症 ASで有症状となり、手術治療を拒否した患者を対象とした研究では、狭心痛出現後の平均余命は45ヵ月、失神後が27ヵ月、心不全後が11ヵ月というデータが報告されている。

治療:有症候性の重症AS、左室機能低下を伴う一部の無症候性重症ASは、SAVR(外科的大動脈弁置換術)によって症状や生命予後の改善が期待できる。また、低侵襲カテーテル治療であるTAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)が2013年に日本で保険適応となり、高齢者やフレイル、全身状態不良な症例など外科手術が困難な症例にも治療の可能性が広がっている。

AR(大動脈弁閉鎖不全症)

病因:ARは先天性または後天性の何らかの異常により、大動脈弁尖間の接合が障害されて逆が生じる状態。その機序は、リウマチ性や加齢変性のように弁自体に器質的変化をきたしている場合と、弁そのものに変化がなくても上行大動脈が拡大しているために弁尖間の接合が浅くなって逆流を生じる場合がある。

病態(慢性AR):特徴は左室に対する持続的な容量負荷。容量負荷による一回心拍出量の増加に伴い、収縮期大動脈圧および平均大動脈圧が上昇するため、左室に対する後負荷(圧負荷)も増大する。代償期の間は「過剰な後負荷」、「前負荷に対する予備力」、「心筋肥大」のバランスの中で血行動態を維持しているが、長期間 ARが続くことで、後負荷・前負荷に対する予備力が破綻し、後負荷不適合によりLVEFの低下が始まる。さらに進行すると心筋障害が進行し、左室機能低下が不可逆性になる

病態(急性AR):IE(感染性心内膜炎)、大動脈解離、外傷、カテーテルインターベンション後などの急性病態に伴って弁閉鎖が障害されることで発生する。しばしば高度の逆流を生じ、著しい心拍出量低下や急激な重症肺水腫・心原性ショックを呈する。

外科的治療:ARに対する外科治療としては大動脈弁置換術(AVR)がすでに確立されているが、近年、大動脈弁形成術(AVP)も選択肢の一つとなった。大動脈基部の拡大に対しては、人工弁付き人工血管で置換するベントール手術を行う。

急性ARは、その原因から考えても、内科的にコントロールが困難な場合が多く、外科治療の適応について早急に検討する必要がある。慢性 ARにおける手術適応は、「症状」、「LVEF低下」、「左室拡大」さらに「他の開心術施行」の有無に規定される。

内科的治療:慢性AR患者における内科治療は、血圧コントロール(収縮期血圧 <140 mmHg)を中心に行われる。

MS(僧帽弁狭窄症)

病因:リウマチ性MSの発生率は先進国においては大幅に減少している。一方、高齢者では弁輪石灰化などの変性によるMSが増加しているが、重症化することは稀

病態:MSの主病態は弁狭窄に伴う左房から左室への血液流入障害。これにより、左房圧が上昇し肺静脈圧も上昇することで、呼吸困難を主とする症状が出現する。通常、運動、妊娠、甲状腺機能亢進症、貧血、感染および心房細動などによる頻脈で初めて症状を認めることが多い

治療:MSに対する介入基準は,自覚症状MVA(僧帽弁口面積)によって規定される。一般的には薬物治療を行っても労作時呼吸困難の臨床症状があり、MVA≦1.5cm2の場合(中等症および重症MS)には、外科手術またはPTMC( 経皮的僧帽交連切開術 )などの治療が適応となる。手術あるいはPTMCの適応外と判断された有症候性重症MSに対しては、利尿薬、ジギタリス製剤・β遮断薬をはじめとした心不全に対する対症療法を行う。

MR(僧帽弁閉鎖不全症)

病因と特徴:僧帽弁は、左室および乳頭筋、腱索、弁尖、弁輪、左房によってその機能が決定され、これらは総称して僧帽弁複合体あるいは僧帽弁装置とよばれ、これらのいずれの部分に障害があってもMRが生じうる。先進国において、MRは ASと1、2 を争うほど有病率の高い弁膜症

分類

1.一次性 MR器質性MR):弁尖または腱索、乳頭筋の器質的異常によって生じるMR 。僧帽弁逸脱、僧帽弁腱索断裂、リウマチ性MR、僧帽弁穿孔や僧帽弁輪石灰化によるMRなどが挙げれられる。

2.二次性MR機能性MR):左室や左房の拡大または機能不全に伴って生じるMR。左室収縮機能低下に伴うMR(心室性機能性MR)は拡張型心筋症、心サルコイドーシス等の疾患に認められ、虚血性心疾患でも発症する。持続性心房細動例における心房拡大に起因するMRは、心房性機能性MRと呼ばれ、最近注目されている。

病態:一次性MRの基本病態は、左室の容量負荷と左房への逆流による左室後負荷の減少である。重症MRは無症候性でも予後が不良で、EROA(有効逆流弁口面積)が0.4 cm2を超える無症候性重症MRの追跡研究では、10年で90%が外科治療を受けるか死亡していることが報告されている.

慢性二次性MRは、基本的には左室機能低下に起因する逆流であるため、患者の症状は一般的な慢性心不全症状と同様である.二次性 MRを呈する症例では、心不全や心臓死が増加する.二次性MRでは、重症MRはもちろんのこと、軽症MRであっても有意に予後を悪化させる

治療重症一次性MRで手術適応となった場合は、僧帽弁形成術僧帽弁人工弁置換術(MVR)が行われる。僧帽弁人工弁置換術の対象は、形成術が技術的に困難な症例や、硬化の強いリウマチ性、弁輪石灰化の強い透析例である。血行動態の不安定な急性MR患者においては、内科的薬物療法による血管拡張薬や利尿薬を用いた前負荷・後負荷の軽減に加え、必要に応じて強心薬投与・大動脈バルーンパンピングや経皮的心肺補助装置などのサポートによる救命・集中治療を行い、血行動態が改善した後の外科手術につなげる。

心室性機能性MR は、左室に病変の本体があるため、MRを止めることがかならずしも本質的な疾患の治療になるわけではなく、心不全に対する十分な内科治療が大前提となる。外科治療においては、血行再建を同時に行うことにより左室心機能の改善が期待できる虚血性心筋症と、MRのみを制御する非虚血性心筋症は分けて考えられる。

有症候性の心房性機能性MRを伴う例では、まず心房細動を合併する心不全に対する薬物療法を十分に行う。心房拡大が高度ではない症例では、アブレーションによる洞調律維持が心房性機能性MRに対する有効な治療のひとつであると考えられる。心房性機能性MRに対する外科治療介入の有用性を示す論文はまだ少ないのが現状であるが、MRが生じる機序が弁輪拡大に伴う接合不全であるため、弁輪拡大を矯正する
ために人工弁輪による弁輪縫縮が基本術式となる.

※補足【MitraClip®:MRの治療の第一選択は外科手術だが、手術適応があるMR患者でも一次性MRの約半数、二次性MRの約8割の患者が手術に至っていないと報告されている。経皮的カテーテル僧帽弁修復術は、手術不能または手術リスクの高いMR患者への治療として開発された。現在もっとも普及しているのが MitraClip®であり、日本では一次性および二次性MRの両方に対して2018年4月から保険適用となった。

 

参考文献
・2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
(日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン)

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