こんにちは。心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
今回は「心不全とフレイル」についてお伝えしていきます。
心不全患者さんの高齢化とともに、フレイルを有する方の割合が年々増加しています。
フレイルになると、身体機能低下や生命予後が悪くなることは知られていますが、心不全患者さんではどうでしょうか?
結論を先にいうと、心不全とフレイルを合併すると、再入院率や予後に悪影響を及ぼします。
以下では「フレイルの概要」「評価方法」「フレイル予防法」なども含めて、「心不全とフレイル」について詳しく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください!
フレイルとは?
3つのフレイル
まずは「フレイル」というと、まず「身体機能の低下」をイメージされる方が多いと思いますが、フレイルには以下の3つの種類があります。
まずは「身体的フレイル」で、これはイメージの通りの身体機能の低下や筋力低下を表しています。
2つ目の「精神的フレイル」は、認知機能の低下や抑うつ状態を有する場合を指します。
3つ目の「社会的フレイル」は、高齢独居などで社会的に孤立している場合や、あまり外に出ず家に引きこもっている場合をいいます。
このように、「フレイル」とは、単に身体機能の低下のみならず、精神的・社会的な面にも目を向ける必要があります。
オーラルフレイル
上記の3つとは別に、昨今重要視されているのが「オーラルフレイル」です。
オーラルフレイルは、口に関するささいな衰えを放置したり、適切な対応を行わないままにしたりすることで、口の機能低下、食べる機能の障がい、さらには心身の機能低下まで繫がる負の連鎖が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らした概念
引用:歯科診療所における オーラルフレイル対応マニュアル 2019 年版
老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繋がる一連の現象及び過程が「オーラルフレイル」と定義されています。
フレイルの評価方法
ここからは、使用頻度の高い「簡易的な身体的フレイル評価法」について、2種類説明します。
Freidらの評価基準(CHS基準)
1つ目はFreidらが提唱した評価基準で、フレイルの以下の5つの特徴をもとに評価するものです。
2020年に国立長寿医療研究センターから発表された「改訂J-CHS基準」は以下の通りです。
評価項目 | 評価基準 |
1.体重減少 | 「6か月間で2~3kg 以上の(意図しない)体重減少がありましたか?」 に「はい」と回答した場合 |
2.倦怠感 | 「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」 に「はい」と回答した場合 |
3.活動量 | ①「軽い運動・体操をしていますか?」 ②「定期的な運動・スポーツをしていますか?」 上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答した場合 |
4.握力 | (利き手における測定)男性28kg 未満、女性18kg 未満の場合 |
5.通常歩行速度 | 1m/秒未満の場合 |
5つの項目のうち、3項目以上該当した場合をフレイル、1~2項目該当した場合を前フレイル(プレフレイル)、該当項目が0の場合は健常となります
Clinical Frailty Scale
もう一つは、Clinical Frailty Scale(CHF:臨床虚弱尺度)です。
この評価は、高齢者の健康状態を臨床評価に基づいて「1(壮健:very fit)」から「9(終末期:terminallyill)」の9段階に分類した方法です。
下図は日本老年医学会から2021年12月16日に発表された、日本語版のCFSです。
1に近いほど生活自立度が高く、9に近いほど介護度が高いということになります。
CHFに関して詳しく知りたい方はコチラを参考にしてください。→【参考:CHF(Clinical Frailty Scale)について】
フレイルを有する人の割合は?
高齢心不全患者のフレイルの割合
それでは本題の、心不全とフレイルについて「高齢心不全患者がフレイルを有する割合」に関して、2020年の順天堂大学の研究1)を紹介します。
心不全の診断で入院された65歳以上の患者、1,180人を対象に1年間追跡調査し、その間に心不全により再入院もしくは死亡したかどうかを記録し、これを複合エンドポイントとして解析した研究です。それぞれのフレイルを有する割合は以下の通りです。
身体的フレイル | 56.1% |
精神的フレイル | 37.1% |
社会的フレイル | 66.4% |
いずれも高い割合であり、さらに特筆すべきは、これらのフレイルを複数有している場合が多いということです。
0領域 | 13.5% |
1領域 | 31.4% |
2領域 | 36.9% |
3領域 | 18.2% |
上記結果をみると、0領域、つまりフレイル状態にない患者さんは全体の13.5%であり、8割以上の高齢心不全患者さんは、何らかのフレイルを有しているということに驚いてしまいます。
この研究の複合エンドポイントである「心不全再入院」または「死亡」を起こす可能性に関しては、フレイル領域が「0」の患者さんと比較して、1領域で1.38倍、2領域で1.6倍、3領域で2.04倍になることが分かっています。
内容をまとめると、「65歳以上の心不全患者さんの多くは身体的フレイル、社会的フレイル、認知機能低下を合併しており、その3つが多く重なっていればいるほどその後の心不全再入院および死亡の危険性は増す」ということがいえます。
日本人高齢者全体のフレイルの割合
参考までに、東京都健康長寿医療センター研究所が2020年に発表した、「全国の地域在住日本人高齢者のフレイル割合」の調査2)を紹介します。
2012年に行われた全国高齢者パネル調査の参加者のうち、訪問調査に協力した65歳以上の高齢者2,206名のデータを解析した結果です。
その中で、フレイルの割合は「8.7%」、プレフレイルは「40.8%」、健常が「50.5%」であり、女性、高齢、社会経済的状態が低い、健康状態が悪いほど、フレイル割合は高い傾向があったことが報告されています。
この結果をふまえると、一般の65歳以上の方に比べて、心不全患者さんのフレイルを有する率はかなり高いことが分かります。
高齢心不全におけるフレイルの影響
その他の高齢心不全とフレイルの関連を調べた研究では以下のようなことが示されています。
- フレイルを合併した心不全患者は、非フレイル患者と比較し呼吸困難や睡眠障害、うつ症状などの訴えが多く、QOLの低下が顕著である3)
- フレイルの存在は1年後の死亡率、再入院、心機能低下のリスク増加と密接に関係する4)
このように、フレイルは心不全患者さんの予後やQOLに多くの影響をもたらす可能性があるため、フレイルの有無を評価することは重要なことだといえます!
フレイル予防の取り組み
では、フレイルを予防あるいは少しでも改善できれば、患者さんの予後やQOLに良い影響をもたらすのではないでしょうか?
フレイル予防には以下の「3つの柱」があります。
栄養
バランスの良い食事やたんぱく質の摂取、さらには口腔機能の維持(嚙む機能、嚥下機能)が大切とされています。
身体活動
しっかりと歩行し、少しの運動でも継続して行うことが推奨されています。筋力低下を防ぐことで、転倒や骨折を予防するとともに、身体機能やQOLの維持・改善を目指します。
社会参加
趣味やボランティア、就労などに取り組むなど、自分に合った活動を見つけることが大切とされています。
これらのことを意識しながら、フレイルの患者さんとコミュニケーションをとることが重要なんですね
フレイルと心不全のまとめ
- フレイルの概要や評価法、心不全との関連についてまとめました。
- 高齢心不全患者さんはフレイルの合併率が高く、それは予後やQOLに大きく影響します。
- フレイルは予防可能であり、不可逆的なものではないため、早期の介入により患者さんのために出来ることから始めるのが重要ではないかと考えており、私自身、フレイル予防の重要性を日々伝えていけたらと思っています。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献 1)末永祐哉,葛西隆敏ら:高齢心不全患者における多面的フレイルの頻度と予後への影響(FRAGILE-HF研究),European journal of heart failure. 2020 11;22(11);2112-2119 2)Murayama H, Kobayashi E, Okamoto S, et al. National prevalence of frailty in the older Japanese population: Findings from a nationally representative survey. Archives of Gerontology and Geriatrics, 2020. 3)Denfeld QE,Winters-Stone K,et al.Identifying a relationship between physical frailty and heart failure symptoms.J Cardiovasc Nurs 33:E1-7,2018 4)Vidan MT,Blaya-Novakova V,et al.Prevalence and prohnostic impact of frailty and its components in non-dependent elderly patients woth heart failure.Eur J Heart Fail 18:869-75,2016
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