心不全のステージ分類というものがあるのを知っていますか?
癌のステージは知ってるんですが、心不全にもステージがあるんですか?
そうなんです。心不全も病期の進行具合によって、心不全ステージ分類というものがあります。
各ステージに応じて、治療目標や患者さんとの関わり方が変わってくるので、知っておくと役に立つと思いますよ!
心不全ステージ分類とは
【A~D】4つのステージ
心不全のステージはA~Dの4段階に分けられます。Dに近づくほど病態は重症です。
簡単に言うと、ステージA/Bは心不全になる前の「リスクがある」状態、ステージCは「心不全を発症した」段階、ステージDは「症状が進行して治療が難しくなった」状態をいいます。
詳しい定義は以下の通りです。
(1)ステージ A:At-risk for HF(心不全リスク)
・心不全の症状または徴候はなく,それらの既往もない。
・心疾患を示す器質的所見あるいはバイオマーカーの異常は認められない。
・高血圧,動脈硬化性心血管疾患,糖尿病,肥満,心毒性を有する物質への曝露,心筋症の家族歴を有する。
(2)ステージ B:Pre-HF(プレ心不全)
心不全の症状または徴候はなく,それらの既往もないが,以下の①~③のいずれかを有する患者群。
①器質的心疾患(左室肥大,心室の拡大,心室の壁運動異常,心筋組織の異常,心臓弁膜症など)
②心機能異常(左室または右室の収縮能低下,充満圧の上昇,拡張能障害など)
③ BNP 濃度の上昇または心筋トロポニン値の上昇
(3)ステージ C:HF(心不全)
現在,器質的および / あるいは機能的な心臓の異常を原因とする心不全の症状または徴候を有するか,過去にそれらの既往がある。
(4)ステージ D:Advanced HF(進行性心不全)
・安静時に重度の症状や徴候がみられる。
・ガイドラインに準拠した管理や治療(GDMT)を行っても再発を繰り返す。
・GDMT に対して抵抗性または不耐性を示す。
・心臓移植,補助循環,緩和ケアなど進行例に対する治療を考慮する必要がある
筒井裕之:心不全の世界共通定義と分類.Heart View Vol.26 No.1, 2022より引用
心不全と癌のステージ分類との違いは、心不全は「症状が出る前から始まっている」ということです。
いわゆる「予備軍」の段階から介入をはじめ、心不全の発症を抑制する目的があります。
心不全になってから治療するのではなく、病気になる可能性(リスク)のある段階から対処することが大切なんですね
ステージの進行とその特徴
以下の図は、心不全ステージ分類の各ステージにおける、身体機能の変化や治療目標がまとめられたものです。
まずは身体機能の特徴です。
ステージA/Bの「心不全リスク」の段階では、身体機能の低下はほとんどありませんが、ステージCになったとたんに大幅に低下します。
初回心不全発症を契機に、心不全の増悪と緩解を繰り返す中で、身体機能は右肩下がりに低下していきます。
癌患者の身体機能は、終末期直前まで保たれる可能性が高いことが知られていますが、これも心不全と癌の違いといえます。
また、注目すべきなのは、慢性心不全の急性増悪(上図のオレンジの矢印)の部分で、そこで大きく身体機能が一時的に低下していることです。
一度大きく低下した身体機能は、もとに戻ることが難しく、これを繰り返すことは身体機能の低下を早めることにつながります。
つまり、身体機能の低下を抑制するには、「心不全をコントロールし、なるべく増悪の回数を減らす」ことが重要なのです。
心不全ステージCからDへの移行を遅らせるためにも同様のことがいえます。
次に治療目標に関してです。
ステージAでは高血圧や糖尿病などの「危険因子の治療」が中心となります。
ステージBは、器質的な心疾患あるいは心機能異常がある状態ですから、ステージAより心不全発症のリスクは高いため、「発症を予防するため治療」が行われます
ステージCでは、実際に心不全増悪を来した状態ですから、「心不全の治療」や「再入院の予防」などが中心となります。
ステージDは、治療抵抗性で末期心不全の状態ですから、「緩和ケア」や「終末期ケア」の対象となります。
ここからは、各ステージで心臓リハビリテーションを行う立場として、どのように関わっていくのかについてお伝えしていきます。
各ステージにおけるの関わり方の工夫
ステージA
日本の高血圧患者は、約4,300万人と推定されており、日本人のおよそ3人に1人が高血圧という状況から、ステージAの方は非常に多くおられます。
ただ、この中で自分が「心不全のステージ分類」に足を踏み入れてる認識がある人はほぼいないと思います。
そのため、この時期の方には「高血圧や糖尿病などの疾患が、将来自分の体にどのような影響を及ぼすのか」ということを十分に知ってもらうことが重要です。心筋症の家族歴がある方にも、そのリスクを伝える必要があります。
これらの疾患は、症状がないことがほとんどなので危機感がある方は少ないですが、この時点で行動変容が出来た場合、かなりの確率でステージの進行を防ぐことにつながると考えます。(参考:行動変容について)
糖尿病の方は、糖尿病教室への参加などもとても有効だと思います。
ステージB
ステージBは器質的な心疾患あるいは心機能異常がある状態ですから、「心不全の発症がすぐそこまで近づいている」と本人に認識してもらうことが重要です。
「各患者さんの現在の病状」や「心不全になった時の症状」など、より具体的な情報をお伝えして、心不全を発症しないために何が必要かを一緒に考える必要があります。生活習慣の改善が必要な場合は、すぐに行動に移すことが大切です。
また、ステージA/Bの方に共通していえることですが、この時期の方は生活に困る症状があるわけではないため、薬を自己中断してしまうことが多いと感じています。「なぜ薬を飲み続ける必要があるのか」ということや「薬のおかげでステージCに移行を防げている」ことなどを伝えると有効だと思います。
ステージC
心不全として実際に入院することになるのはこのステージCの段階です。
薬での治療は医師が中心ですので、心臓リハビリテーションに従事する私たちの介入としては、心不全に至った経緯や、これまでの生活の振り返りを行います。身体機能の評価などを通して、現状の把握、これからの運動療法の指導についても行います。
また、医師の治療方針や検査結果などから各患者さんの病状を把握し、現時点での問題点や、心不全を再増悪させないために必要なことを患者さん本人と共有します。
心不全は入院治療が終わり退院したら終わりという疾患ではないので、退院後は自己管理をしていただくために、入院中からバイタルなどのセルフモニタリングを促すなどの方法は有効です。
多職種が連携して、再入院を防ぐ取り組み、ステージDへの進展を出来るだけ遅らせる取り組みを行うのがステージCの時期です。
ステージD
ステージDになると、治療抵抗性となり末期心不全に近い状態となるため、心臓リハビリでの積極的な介入は現実的に難しくなります。
これまでステージCの段階から関わってきた方であれば「その人自身がどのような人か」「何を大切にしているか」「どのような最期を迎えたいと思っているか」など各々知っていることがあります。
これらの情報をご家族や多職種と共有して、本人のQOLの向上や緩和ケアにつなげることが、この時期に私たちが出来ることではないかと考えています。
まとめ
- 心不全のステージ分類の概要と、各時期における関わり方の工夫についてお伝えしました。
- 目の前の患者さんが、今どのステージの状態なのかを意識して関わることで、効果的な介入が可能になると考えます。
- 個人的には、心不全に至る前のステージA/Bの段階の方に、心不全について理解を広めていくことが最も重要ではないかと考えています。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献 ・日本循環器学会 / 日本心不全学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版) ・筒井裕之:心不全の世界共通定義と分類.Heart View Vol.26 No.1, 2022 ・Bozkurt B, Coats AJS, Tsutsui H, et al: Universal definition and classification of heart failure: a report of the Heart Failure Society of America, Heart Failure Association of the European Society of Cardiology, Japanese Heart Failure Society and Writing Committee of the Universal Definition of Heart Failure: Endorsed by the Canadian Heart Failure Society, Heart Failure Association of India, Cardiac Society of Australia and New Zealand, and Chinese Heart Failure Association. Eur J Heart Fail 23: 352-380, 2021.
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