こんにちは、心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
今回のテーマは、心不全治療薬「ACE阻害薬とARB」についてです。
心不全患者さんに使用される薬剤は多くありますが、どれも心不全の予後改善に重要な役割を持っています。
また、心臓リハビリにおいて、これらの効果と副作用を把握しておくことは安全に運動療法を実施するためにとても大切です。
今回はACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)について確認していきます!
他の心不全治療薬についても記載しています。(参考:β遮断薬の効果と運動中のリスク管理)
ACE阻害薬/ARBの効果と使用方法
慢性心不全に対する効果
ACE/ARBの作用は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の抑制です。
分かりやすく言うと↓
ACE阻害薬/ARBは、血圧を上げるホルモンの働きを妨げることで血圧を下げ、心筋を保護する薬
心不全では、心拍出量の低下などから腎血流量の低下や血圧低下などが起こり、RAA系が亢進しそれを代償しようとします。(RAA系については下図参照)
心不全における交感神経の活動活性も、レニン分泌活性などを介してRAA系をさらに亢進させます。
この代償的な過剰なRAA亢進は、心臓への負荷(前負荷・後負荷)を増大させ、心臓のリモデリング(心肥大・線維化)を促進し、心不全を悪化させていく悪循環へと導きます。
つまり、RAA系の亢進によって心不全が悪化するという悪循環を断ち切るために、ACE阻害薬とARBを使用するということです!
※補足:レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系とは?
腎血流量が低下すると、傍糸球体装置の輸入細動脈の圧受容体が腎糸球体内圧の低下を感知し、レニンが産生・分泌される。レニンは肝臓で産生されたアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変換し、さらにアンジオテンシンⅠは肺毛細血管に多く存在するACEによってアンジオテンシンⅡに変換される。アンジオテンシンⅡは副腎皮質に作用してアルドステロンの分泌を促進させる。アンジオテンシンⅡは AT1 受容体を介して血管収縮を起こし、アルドステロンは腎臓の遠位尿細管にてナトリウム(Na+)と水の再吸収を起こし、血圧・体液量の維持を司る。
ACE阻害薬とARBはそれぞれRAA系のどの部分に作用するのでしょうか?下図にお示しします。
ACE阻害薬は、その名の通りアンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し、アンジオテンシンⅡの生成を抑制します。
一方、ARBは、アンジオテンシンⅡがAT1受容体に結合するのを阻害します。
作用部位は異なりますが、いずれもRAA系を抑制することで、心臓の負荷やリモデリングを防ぐという目的は共通です。
ACE阻害薬/ARBのエビデンス
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)において、ACE阻害薬の「禁忌を除くすべての患者に対する投与(無症状の患者も含む)」はエビデンスレベルAで、有効性が広く認められています。
ARBの「ACE阻害薬に忍容性のない患者に対する投与」もエビデンスレベルAです。
ARBの「ACE阻害薬との併用」はエビデンスレベルBで、有効性が示唆されています。(ACE阻害薬とARBの併用について付加的な有効性は確認されていません)
2021年フォーカスアップデート版のガイドラインにおいても、「HFrEF治療のもっとも重要な点は、予後改善が示されているACE阻害薬/ARB+β遮断薬を初回診断時から、忍容性がある限り最大限用いることである」とされています。
2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
ACE阻害薬またはARBは、すべての左室収縮機能低下(HFrEF)症例に用いられるべきとされています!
HFpEF症例においては、生命予後改善効果は証明されていないものの、臨床イベント発生を抑制する目的で投与が推奨されています。
ACE阻害薬/ARBの使い分け
心不全の予後改善のエビデンスが強固であるという理由から、HFrEFに対しての第1選択薬はACE阻害薬とされています。
原則としてACE阻害薬に忍容性がない場合にARBが投与されます。
ただし、ACE阻害薬はほとんどが腎排泄性であるのに対し、ARBはすべてが肝代謝によって排泄されることから、腎機能低下症例に対してはARBが選択される場合があります。
ACE阻害薬/ARBの種類と使用方法
慢性心不全治療に使用される代表的なACE阻害薬とARBは以下のものです。
一般名 | 商品名 | |
ACE阻害薬 | エナラプリル | レニベース® |
リシノプリル | ロンゲス® | |
ARB | カンデサルタン | ブロプレス® |
ACE阻害薬/ARBは他にもありますが、一般名の語尾にそれぞれ「…プリル」、「…サルタン」がつきます。覚えるときのご参考に。
副作用
ACE阻害薬/ARB内服による副作用は以下のものが挙げられます。
2剤共通の副作用:血圧低下、血清クレアチニン値上昇、血清カリウム値上昇、血管性浮腫
ACE阻害薬特有の副作用:空咳
これをふまえて、リハビリ中にどんなことに注意すべきかを考えていきましょう。
運動中のリスク管理
ACE阻害薬、ARB内服時にリハビリで運動療法をするにあたって、まず注意すべきは血圧の低下、高カリウム血症です。
運動療法の前後にバイタルを確認し、過度な血圧低下がないかを確認しましょう。(参考:心臓リハビリにおける運動の中止基準について)
高度の高カリウム血症は、致死性の不整脈を引き起こす可能性があるため、運動実施前に血清カリウム値を確認しておくことをおすすめします。カリウムの正常値は「3.5~4.9mEq/L」で、6.5mEq/Lを超えると、不整脈や心停止など命に関わる症状が出る危険性が高くなるため、特に注意しましょう。
また、薬剤の腎機能の低下、血清クレアチニンの上昇がみとめられた方に対しては、運動の負荷量に注意が必要です。心不全にも当てはまることですが、腎不全増悪時に過度な負荷がかかると、全身状態をより悪化させることになります。低負荷の運動から開始し、腎機能の悪化がないことを確認しながら段階的に負荷を上げるようにします。
さらに、ACE阻害薬を内服中の方は、空咳の症状がないか確認しましょう。
実際、呼吸器疾患の合併がない患者さんで、咳が続き夜間眠れないという方がおられ、ACE阻害薬の副作用だったことがあります。
心不全急性期では、胸水貯留などの影響で咳嗽がある方はめずらしくないため、薬の副作用は見落とされやすい可能性があります。
リハビリ中に咳が出ている場合や、不眠で困っている患者さんがおられたら、咳の性質や頻度などを聞いてみるといいかもしれません。患者さんと長く関われるコメディカルだからこそ気がつけることも多いです。
心不全の咳との区別は「湿性」か「乾性」です。ACE阻害薬の副作用なら乾いた「空咳」です
まとめ
- 心不全治療に使用されるACE阻害薬とARBついてお伝えしました。
- 薬の作用や副作用を正しく理解して、運動中のリスク管理をしっかりと行い、リハビリ中の事故を防ぎましょう。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献 1)中村 一文・小倉 聡一郎:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB).Medicina.Vol.55 No.13.pp2198-2200 2)澤村 昭典:ACE 阻害薬/ARB.Medicina.Vol.58 No.1.pp86-89 3)日本心臓リハビリテーション学会編:指導士資格認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.2010 4)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
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