【心臓リハビリ】運動療法中の中止基準について

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ぴんころ
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こんにちは、心臓リハビリテーション指導士ぴんころです。

私は理学療法士として急性期病院に勤務し、主に心臓リハビリテーションを担当しています。

今回は2021年に改訂された「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」を参考に、心臓リハビリテーションにおける「運動療法実施中の中止基準」について解説します。

循環器疾患を有する患者さんと関わる機会のあるリハビリスタッフや、医療従事者の方に読んでいただきたい内容です。

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運動療法開始前にすること

今回は運動療法中の中止基準に関してですが、まずは、対象となる患者さんがそもそも運動療法をしてもいい状態かを確認する必要があります。

(参考:【心臓リハビリ】積極的な運動療法の禁忌について

運動の開始前に、患者さんの全身状態をカルテや問診などで確認します。入院急性期は病態が変化しやすいので注意が必要ですし、高齢の患者さんは合併症を有しているケースが多いので、それらの状態にも気を配る必要があります。

運動療法の中止基準

絶対的中止基準

以下の6項目がガイドラインに示されている絶対的中止基準となります。「絶対的」ということですから、「このいずれかが出現した場合、原則的に運動を中止しましょう」という内容です。

絶対的中止基準
  1. 患者が運動の中止を希望
  2. 運動中の危険な症状を察知できないと判断される場合や意識状態の悪化
  3. 心停止、高度徐脈、致死的不整脈(心室頻拍・心室細動)の出現またはそれらを否定できない場合
  4. バイタルサインの急激な悪化や自覚症状の出現(強い胸痛・腹痛・背部痛、てんかん発作、意識消失、血圧低下、強い関節痛・筋肉痛など)を認める
  5. 心電図上、Q波のない誘導に1 mm以上のST上昇を認める(aVR,aVL,V1誘導以外)
  6. 事故(転倒・転落、打撲・外傷、機器の故障など)が発生

「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」より引用

この中止基準には患者側の主観的な要素と、医療従事者側の客観的な要素があり、これらはどちらも重要となります。

⑴に関して、ガイドラインでは「運動中の患者が運動の中止を希望した場合は、その理由によらず、ただちに運動を中止する」としています。⑸にも一部記載されていますが、自覚症状の変化には十分に注意して、運動中の胸部症状や疲労感などを定期的に聴取することが重要です。

⑵に関して、運動中の呼びかけに対して十分な応答が得られない場合など、患者自身が運動中の危険な症状を自覚できない場合はもちろんのこと、心電図電極がはずれるなど、何らかの事情により医療従事者側が危険な状況を客観的に察知できないと判断される状況においても運動は速やかに中止する必要があります。

⑶~⑸に関しては、バイタルや心電図変化についてです。リハビリ前後の血圧・脈拍測定はとても大切で、運動前の血圧は普段と大きな変化がないか、運動後に過度な血圧上昇や低下はないか客観的に評価します。

心電図を確認することも大変重要です。まず運動前にリコールで過去数時間に危険な不整脈が生じていないか過度な徐脈・頻拍が生じていないかを確認します。不整脈にも多くの種類があるので、各不整脈の危険度と循環動態に与える影響を知っておきましょう。⑸のST上昇は心筋梗塞を示唆する所見ですので、危険度・緊急性ともに高いのでただちに運動を中止し、主治医への報告や12誘導心電図などの各種検査を実施する必要があります。

⑹の転倒などの事故に関しては、どの疾患でも中止する事項であると思います。勤務先の「アクシデントへの対応マニュアル」に従い対処します。心疾患患者さんはフレイル・サルコペニアを合併している確率が高く、転倒リスクが高い傾向にあることを念頭においてリハビリを行います。

相対的中止基準

続いて、「相対的中止基準」ですが、こちらはガイドラインで「患者の病態や併存疾患,投薬内容などによって中止基準を勘案すべき」状態とされています。ただし、相対的中止基準のうち2項目以上が同時に出現した場合には,絶対的中止基準と同等と判断し,ただちに運動を中止します。

相対的中止基準
  1. 同一運動強度または運動強度を弱めても胸部自覚症状やその他の症状(低血糖発作、不整脈、めまい、頭痛、下肢痛、強い疲労感、気分不良、関節痛や筋肉痛など)が悪化
  2. 経皮的動脈血酸素飽和度が90%未満へ低下または安静時から5%以上の低下
  3. 心電図上、新たな不整脈の出現や1 mm以上のST低下
  4. 血圧の低下(収縮期血圧<80 mmHg)や上昇(収縮期血圧≧250 mmHg,拡張期血圧≧115 mmHg)
  5. 徐脈の出現(心拍数≦40/min)
  6. 運動中の指示を守れない、転倒の危険性が生じるなど運動療法継続が困難と判断される場合

「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」より引用

⑴に関しては、前日と同様の負荷でリハビリを行っても、負荷を弱めても自覚症状が悪化する場合なので注意が必要です。この場合は、前日との変化を再度確認します。具体的には「血圧・脈拍・体温などのバイタル」「投与薬の変更の有無」「当日検査をしている場合は各種検査所見(心不全および併存疾患悪化の有無を確認)」「食事摂取量」「睡眠時間や排泄状況などの生活状況」などが挙げられます。運動の中止を検討するだけではなく、このようになっている原因を自分なりにアセスメントできると、主治医や他スタッフに報告・相談しやすくなります。

⑵の酸素化不良の場合、体が低酸素状態で運動を継続することは心負荷につながる可能性があるため注意します。COPDなどの慢性疾患の場合は、安静時からSpO2が低値である場合が多いため、主治医に許容範囲を確認してリハビリを実施します。

⑶の心電図変化で、「新たな不整脈」については、先ほどの絶対的中止基準でも記載した通り、どの程度の危険度で循環動態に影響を及ぼすものかを判断できないといけないので、安全な運動療法を実施するために知識を身につけましょう。「ST低下」狭心症などの心筋虚血の時に生じる心電図で、運動負荷でこのような心電図変化が起こったという事実を主治医に報告します。狭心症にも種類があり、すぐに治療が必要な場合と経過観察の場合があるので、検査結果等を確認し主治医の指示を仰ぎます。

⑷⑸は運動中のバイタル変化に関してで、血圧・脈拍に関してこれらの基準を逸脱すると循環動態に影響を及ぼしたり、高リスクになるものとして覚えておくと良いと思います。ただし、患者さんによって通常時のバイタルには個人差があるので、これらの値とともに安静時から運動時の変化率にも十分に注意しましょう。

⑹は認知症を有する方や、整形外科疾患の疼痛が生じた場合などが考えられますが、運動中のリスクが運動によるメリットを上回る場合は、いずれにしても運動の中止を検討する必要があると思います。私自身、その日休んで翌日に行ったら、全然問題なくリハビリできたということをこれまでに幾度となく経験しています。

糖尿病を合併する患者さんのリスク管理

全体を通して言えることですが、糖尿病を合併している患者さんのリスク管理は特に注意を要します。「低血糖による意識障害」、「起立性低血圧・自律神経障害による血圧変動」、「末梢神経障害や網膜症による転倒リスク」、「無症候性心筋虚血を生じやすい」など思いつくだけでも多くのリスクがあります。

糖尿病のコントロール状況基礎心疾患の重症度・治療状況を確認すること、運動療法を実施する時間帯(低血糖のリスクが少ない食後1-2時間)などに注意してリハビリを実施することで、リスク軽減につながると思います。無症候性心筋虚血に関しては、自覚症状では判断できないため心電図などの客観的評価が必要となります。


まとめ

  • 心臓リハビリの運動療法実施中の中止基準についてお伝えしました。
  • 患者さんの自覚症状と医療者の客観的評価をもとに、適切なリスク管理を行うことで事故は未然に回避できます。
  • リスクが高い患者さんを担当するのは不安なものですが、ガイドラインなどで新しく正しい知識を身につけてリハビリを実施することが大切だと思うので、私自身も勉強を続けていきたいと思います。
  • 最後までお読みいただきありがとうございました。


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