こんにちは、心臓リハビリテーション指導士のぴんころです!
今回は「冠危険因子」についてお伝えします。
冠危険因子とは?
まず、冠危険因子という言葉をご存じでしょうか?
「冠」とは心臓の周りを走行している「冠動脈」を表していて、この冠動脈の動脈硬化によって生じる疾患には「狭心症」や「心筋梗塞」があります。(参考:狭心症について、心筋梗塞について)
動脈硬化を引き起こしやすくなる要因、すなわち冠動脈疾患のリスクとなる要因のことを「冠危険因子」といいます。
一般に、冠危険因子が多ければ多いほど冠動脈疾患を起こしやすく、冠危険因子が少なければ少ないほど冠動脈疾患を起こしにくいことが知られています!
冠危険因子を減らすことが、「狭心症や心筋梗塞の予防」につながるということですね!
代表的な冠危険因子の一覧
では、「12の冠危険因子」についてご紹介します。
なお、この記事は「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」の情報を参考に作成しています。
- 高血圧症
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 慢性腎臓病
- 喫煙
- 家族歴
- 高尿酸血症
- 睡眠時無呼吸症候群
- 運動不足
- 過度な飲酒
- 心理的側面(抑うつ、不安、不眠)
- 社会的側面
非常に多くの要因があるんですね!
みなさんも、どれか一つぐらいは心当たりがあるのではないでしょうか?
ここからは、それぞれの因子について「エビデンス」や「コントロールの目標値」をお伝えしていきます。
代表的な冠危険因子5つ
冠危険因子として代表的で、必ず押さえておきたいのは以下の5つです。
高血圧症・糖尿病・脂質異常症・慢性腎不全(CKD)・喫煙
これらは、いずれも適切や治療や、生活習慣の改善により管理可能な要因なので、ぜひ積極的に介入していくべき項目です。
1.高血圧症
NIPPON DATA2010、2010年国勢調査人口より推計される「日本の高血圧有病者推計数」は4300万人(男性2,300万人、女性2,000万人)と言われています。実に、30歳以上の男性の60%、女性の45%が高血圧であり非常に身近な疾患といえます。
高血圧は心血管病(脳卒中および心臓病)の最大の危険因子といわれており、適正な血圧管理は非常に重要です。
2.糖尿病
これまでの疫学調査において、糖尿病は脳卒中や心血管疾患発症のリスクを約2~4倍上昇させると報告されています。
また、HbA1cが1%上昇すると心血管イベント発生率が 18%上昇することが示されており、糖尿病合併心血管疾患患者の死亡率や再発イベント率が高いことも明らかになっています。
糖尿病は、心血管疾患の発症・イベント発生率、予後のいずれにも関与するため、継続的な血糖管理を早期から行う必要があります!
3.脂質異常症
脂質異常症とは、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪が高い状態、またはHDLコレステロールが低い状態を示す総称です。
LDLコレステロール値、いわゆる悪玉コレステロールが高くなれば、冠動脈疾患の発症率・死亡率が上昇することが分かっており、コレステロール値を目標範囲内におさめることも非常に重要といえます。
4.慢性腎臓病
慢性腎臓病(CKD)は腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%以下に低下する(GFRが60mℓ/分/1.73㎡未満)か、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く状態をいいます。
CKDは動脈硬化疾患の重要な危険因子であり、eGFRの低下に伴い、総死亡や心血管疾患の発症リスクが増加することが明らかにされています。
また、CKDは高血圧や糖尿病を基礎疾患とすることが多く、透析患者さんの死亡原因の50%以上が心血管疾患に起因するため、腎臓を守ることは心臓や脳を守ることにもつながります。
5.喫煙
喫煙は心血管疾患の独立した危険因子であり、タバコにより動脈硬化が進展することは明らかです。
喫煙による冠動脈疾患の発症は、喫煙の本数と期間に比例して増大することが知られていますので、リスクの高い方は原則禁煙が勧められます。
喫煙の程度を示したものに「ブリンクマン指数(喫煙指数)」があります。
ブリンクマン指数:1日の喫煙本数 × 喫煙年数
保険診療での禁煙治療を受けることの条件の一つが「ブリンクマン指数が200以上」です。
自力での禁煙が難しい方は、このような「禁煙外来」を利用することも、禁煙の有効な方法となります。
その他の危険因子7つ
1.家族歴
家族の中に「心筋梗塞」を発症した方がいた場合、心筋梗塞の発症に対するオッズ比はおよそ2倍とされており、「家族歴」は急性心筋梗塞の独立した危険因子です。
また、家族歴がある方の心筋梗塞発症の影響は、若年者においてより強いことが示されてます。
そのため、他の危険因子の有無にかかわらず、家族歴の有無の確認は重要となります。
2.高尿酸血症
高尿酸血症といえば、「痛風」を連想される方が多いと思いますが、最近の研究により、尿酸値は高血圧や冠動脈疾患などの独立した危険因子である可能性が高まっています。
しかし、高尿酸血症が動脈硬化性疾患の危険因子であるかどうかは長年議論されていますが、いまだ十分な結論は得られていないのが現状です。
また、尿酸低下療法が心血管イベントの抑制につながるかどうかについても、現在研究の段階ですので、今後の研究やガイドラインの内容を注視していく必要があります。
3.睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に繰り返し呼吸が止まってしまう病気です。
無呼吸に伴い、体の低酸素状態が長期間続くことで心臓や血管に大きな負担がかかり、心血管病のリスクは高まります。また、睡眠不足の状態が続くことは、倦怠感や日中の眠気につながります。
閉塞型睡眠時無呼吸を有する冠動脈疾患患者は、主要心血管イベントの発生および死亡率の増加との関連が強いとされています。
日本でのSASの患者数は推計200万人とされていますが、実際に治療を行っている人は約2割程度といわれています。CPAP療法による主要心血管イベントに対する二次予防効果は十分証明されていませんが、睡眠の質およびQOLの改善には有効であるため、適切な治療が重要です。
4.運動不足
運動療法を中心とする心臓リハビリテーションが、冠動脈疾患の二次予防に有効であることはすでに多くの研究によって明らかにされています。
上記のような運動を実施することが目標とされていますが、実際は患者さんのリスクや状態に応じて運動強度や実施内容を検討します。
これまで運動習慣がなかった対象者に関しては、生活状況に合わせた簡単な運動から取り入れていきます。何よりも大切なのは、「運動を継続すること」です。継続可能な運動の種類や強度の提案も、非常に大切なことだと考えています。
5.過度な飲酒
適切な飲酒習慣であれば冠動脈疾患の危険因子とならないとされていますが、心血管疾患の発症予防にはアルコールの過剰摂取は控える必要があります。
適正量の25g/日以下となる純アルコール20gに相当する目安量としては、【ビール(5%);500ml、日本酒;1合(180ml)、ウイスキー;ダブル1杯(60ml)、焼酎;グラス1/2杯(100ml)、ワイン;グラス2杯弱(200ml)、チューハイ(7%):350ml】となっています。
日ごろから飲みすぎには気をつけなくちゃ!ですね。
6.心理的側面(抑うつ、不安、不眠)
抑うつや不安、不眠などの精神・心理的な問題も冠危険因子の一つです。
抑うつ症状を有する患者では,1年以内に心血管イベントを再発するリスクが有意に高いと報告されており、患者の心理的側面に対しても注意を払い、必要に応じて精神科や心療内科などとの連携を行う必要があります。
体の健康を保つためには、心も健康でなくてはなりません。
7.社会的側面
冠動脈疾患を予防するためには、生活習慣の是正、服薬の継続、定期的な病院受診などが不可欠です。
これらが適切に行われない場合、リスクが高まり「冠危険因子」となるわけですが、継続的に行うためには患者さんの社会的背景を理解しておく必要があります。
患者さん本人はもちろんですが、ご家族の協力が必要な場合も多く、独居の方の場合は社会的資源の活用を考慮する場合もあります。患者さん一人一人に合った、実現可能な方法を多職種で考えることが大切です。
冠危険因子についてのまとめ
- 12の冠危険因子についてまとめました。
- 冠危険因子の多くは、生活習慣の改善や適切な治療介入によって、悪化の予防・治療をすることが可能です。
- 冠動脈疾患の危険因子は身体的側面から心理的・社会的側面まで多岐にわたっているため,個々の症例に合わせた包括的な介入を行う必要です。
- 心血管疾患の予防のために、「冠危険因子」を1つでも減らすことが、未来の健康につながると思います。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
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