こんにちは、理学療法士のぴんころです。
今回は、長期間動かないことで起こる「廃用症候群」についてお伝えします。
廃用症候群とは
廃用症候群とは「生活不活発病」とも呼ばれ、英語では「disuse syndrome」すなわち「使用しないことで起こる症候群」のことを言います。
以下のような方は廃用症候群に要注意です。
- 最近自宅で過ごす時間が増え、あまり動いていない
- 病院に入院して、体力や足腰の力が急激に落ちた
- 仕事を退職し、やることがなく家にこもりがちだ
動かないことで起こる症状というと「筋力や体力の低下」がまず浮かぶと思いますが、実はそれだけではありません。
体を動かさないことの影響は全身に及ぶことが知られていますので、今回はそれについて詳しく説明します。
また、廃用症候群を起こさないためにはどうしたらいいかについても、お伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
廃用症候群の全身への影響
「体を動かさないこと」は、上述した通り全身へ影響を及ぼします。
筋力や体力以外にも、以下のような体の様々な部分に変化が起こります。
「こんなところにも影響があるの?」というものがあるのではないでしょうか?
ここからは、それぞれに対する影響を1つずつ見ていきます。
筋骨格系への影響
まずは「筋肉・骨」に対する影響です。
- 筋力低下
- 関節拘縮
- 骨粗しょう症
筋力低下
体を動かさない時間が長くなると、筋肉は委縮し、筋肉の持久力は低下します。
筋力が低下することで歩行が困難になる、転倒しやすくなるなど、日常生活に影響が出ます。また、少し動いただけで疲れを感じやすくなるため、動くのが億劫になり、さらに動かなくなるという悪循環も生まれやすくなります。
関節拘縮
同じ姿勢が長時間が続き関節を動かさないと、関節は動かしにくくなります。例えば、正座を長時間した後に、足が伸ばしにくくなるのを想像してもたえたら、分かりやすいと思います。これがさらに進むと、「関節拘縮」すなわち「関節が固まってしまう状態」になることがあります。
言うまでもありませんが、関節の動きが制限されると、動作を制限されたり、動かすときに痛みを伴ったりしますので、関節拘縮は予防することが重要です。関節拘縮は、寝たきりやギプス固定など、数日単位で関節を動かさない場合に生じますので、通常の日常生活を送れる方の場合は、それほど心配はいらないと思います。
骨粗しょう症
動かないことは、骨自体にも影響を及ぼします。骨が萎縮しもろくなる「骨粗しょう症」を引き起こしやすくなります。
骨粗しょう症になると、転倒によって骨折が生じるリスクが高まります。
上述の「筋力低下」と「骨粗しょう症」が併存することで、転倒・骨折のリスクはさらに高くなります。
また、食欲不振により栄養状態が悪くなることで、骨がさらにもろくなる可能性があるため、栄養バランスについて気を付けることも重要です。
心臓・血管への影響
- 血栓(血の塊)ができやすくなる
- 起立性低血圧
- 心予備能低下
血栓が出来やすくなる
「エコノミークラス症候群」というのが有名ですが、同じ姿勢を長時間続けていると、静脈の血液の流れが悪くなり「血栓(血の塊)」が出来やすくなります。この血栓が肺に飛ぶと「肺血栓塞栓症」を引き起こし、命に関わることがあります。
これを予防するためには、長時間の同じ姿勢を避けることが第一ですが、体を大きく動かせない場合は、足首を上下に動かす動作を繰り返すだけでも、ふくらはぎの血管が刺激され血流改善に有効です。
起立性低血圧
「起立性低血圧」とは、体を起こしたときに血圧が下がり、気分不快やめまい・吐き気などが起こる状態をいいます。
長時間寝ている状態が続き、自律神経による循環の調整機能が低下した場合に、このような症状が起こることがあります。
このような場合は、ゆっくりと体を起こす、短時間から起きる練習を開始することなどが有効です。
心予備力低下
「心予備力」とは、運動などのストレスを体に与えたときに、対応する能力を表しています。
動かない状態が続くと心予備力は低下し、以前は何ともなかった運動に対して疲労感を感じたり、これまでは出来ていた運動が困難になったりします。
皮膚への影響
・皮膚の萎縮
・褥瘡(床ずれ)
皮膚に対しての影響としては、体を動かさないということは、皮膚の伸び縮みのなくなるということで、皮膚の萎縮が起こります。
これは皮膚が固く伸ばされにくくなるということで、上述した関節拘縮の原因の1つです。
また、長時間の同一姿勢により、同じ部分に圧がかかり続けることで「褥瘡(床ずれ)」のリスクが高まります。一度褥瘡を起こしてしまうと、完治には時間がかかりますので、予防することが大切です。予防方法としては、こまめに体の向きを変えることや、体の圧を分散させることが有効です。
呼吸器への影響
- 換気量の減少
- 咳嗽力(咳や痰を出す力)の低下
- 誤嚥性肺炎
- 肺塞栓
換気量の減少
体を動かさないことで、呼吸をする力(筋力)の低下や、肺の周りにある胸郭の動きが低下し、1回の呼吸により換気できる量が減少します。
換気できる量が減ると、運動した時に息切れを生じやすくなります。
咳嗽力低下・誤嚥性肺炎
咳を出す力も弱くなりやすく、痰が出しにくくなることがあります。
また、食べ物や飲み物を飲み込む力(嚥下能力)も低下し、誤嚥性肺炎の原因となります。嚥下する力が衰えると、口から食事を摂取できなくなり、栄養状態が悪化するとともに、体の機能の低下も急激に進みます。
肺塞栓
「肺塞栓」は、心臓・血管の部分でも触れたように、静脈に血栓が生じ、その血栓が肺の血管に飛んでしまった病態です。
肺の血管が閉塞することで、急激な呼吸困難や胸痛を生じ、突然死の原因ともなります。
泌尿器への影響
- 尿管結石
- 尿路感染
- 排尿困難、尿閉
体を動かさないことが「泌尿器」に与える影響としては、腎臓、尿管、膀胱に石ができる「尿管結石」や、細菌による感染がおきる「尿路感染」を生じやすくなります。
また、排尿することが難しくなったり、「尿閉」といって尿が出なくなる(出せなくなる)症状が出る場合もあります。
消化器への影響
- 食欲減退
- 便秘
食欲減退
動かなことでお腹がすかないことや、腸の動き自体も悪くなることで食欲は減退しやすくなります。
「食べられない→体が弱る→動きにくくなる→筋力が落ちる・・・」というように負のサイクルに陥り、これをどこかで断ち切らない限り、どんどん体全体が弱っていってしまいます。
便秘
腸の動きが低下することで、便秘も起こりやすくなります。便秘でお腹が張った状態では食欲も出ませんので、便秘に対する対処も適宜行う必要があります。
神経系への影響
- 見当識の障害
- 不安、うつ状態
- バランスおよび協調運動の障害
見当識の障害
「見当識」とは、自分が置かれている状況(日時、場所、人物など)を正しく認識する能力を指しており、認知症の中核症状の一つです。
体を動かさないことで、見当識障害が生じやすくなることが知られています。
不安・うつ状態
体を動かさず、家で過ごす時間が長くなることで「社会的孤立」状態に陥りやすくなります。
社会的に孤立する生活が続くと、「不安」や「うつ状態」につながる可能性があり、精神面に与える影響にも注意が必要です。
バランスおよび協調運動の障害
「協調運動」とは、手と足、目と手など別々に動く機能をまとめて一つにして動かす運動のことを言い、これが障害されると、運動がスムーズに行えなくなります。
体を動かさないことで、体の機能を上手に使えなくなり、バランスや協調運動に障害がでやすくなります。
廃用症候群を防ぐには
最後に「廃用症候群を防ぐ方法」についてお伝えします。
こまめに動くよう心掛ける
自宅でじっとしてテレビを見続けていたり、トイレに行くとき以外は横になっているという方は、まずは「こまめに動く」ということを心がけることから始めましょう。
例)トイレに行く時やテレビを見ながら簡単な体操をする、近所を散歩する習慣をつくる、コンビニに歩いていく など
家庭での役割をつくる
簡単なことでもいいので、家庭での役割をつくることも、動くきっかけになります。
例)洗濯物を取り込む、庭の掃除・水やり、掃除機をかける など
自分に役割を果たすことで他人に喜んでもらえることは「やりがい」につながり、「体」だけでなく「心」の健康にもいい影響を与えます。
趣味を見つける
「体」と「心」の健康を保つには、趣味を作ることも非常に有効です。体を動かす趣味でなくても大丈夫です。
趣味を作ることで外出機会が増えたり、友人・仲間ができることで、社会的な孤立を防ぐことにつながります。
人と会話するだけでも、前向きな気分になったり、「自分も頑張らなくては!」という気持ちになることは多いと思います。
食事をきちんととる
「バランスの良い食生活」も重要な要素の一つです。十分な栄養が摂れなければ、骨や筋肉も丈夫にはなりません。
これらをまとめると、「よく食べ、よく動き、よく出かける」ことが、廃用症候群を防ぐキーワードになるのではないかと思います。
廃用症候群のまとめ
- 廃用症候群が全身に及ぼす影響についてまとめました。
- 筋骨格系:筋力低下、関節拘縮、骨粗しょう症
- 心血管系:血栓ができやすくなる、起立性低血圧、心予備能低下
- 皮膚:皮膚の萎縮、褥瘡(床ずれ)
- 呼吸器系:換気量の減少、咳嗽力の低下、誤嚥性肺炎、肺塞栓
- 泌尿器系:尿管結石、尿路感染、排尿困難、尿閉
- 消化器系:食欲減退、便秘
- 神経系:見当識の障害、不安・うつ状態、バランスおよび協調運動の障害
- 動かないことは、それだけで全身に様々な悪影響を及ぼします。
- 健康寿命をのばすために、少しずつ体を動かす習慣をつくることから始めてみてはいかがでしょうか?
- この記事で1つでも参考になることがあれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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