こんにちは心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
今回は「回復期~維持期の心不全患者さんのリハビリの進め方」についてお伝えします。
この記事の内容は、以下のような方のリハビリの運動処方に役立ちます。
- 心不全急性期のリハビリ介入で順調に離床が進み、徐々に積極的な運動療法が行える段階になった方
- 慢性心不全で状態が安定している方
興味のある方は、ぜひ読み進めてみてください。
心不全急性期のリハビリについて知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。→(参考:心不全急性期のリハビリの進め方)
運動処方について
運動処方とは
まず「運動処方」とは、個人が目標とする健康状態や身体機能を達成するための運動プログラムを作成することです。
運動プログラムを作成する上で重要なことは以下の点です。
- 患者さんの健康状態(病状)に合っていること
- 身体機能および運動耐容能を評価し、考慮した上で作成されること
- リスク管理を踏まえた安全かつ有効な処方であること
患者さん個々に合わせた、有効な運動プログラムを作成することが重要です!
運動処方の目的
運動療法を含む多職種での包括的心臓リハビリテーションは、慢性心不全患者さんの自覚症状や運動耐容能の改善、QOLの改善、再入院の減少などを目的に行われます。(参考:包括的心臓リハビリテーションとは?)
運動プログラムの基本
基本のリハビリ構成
心不全回復期~維持期における運動プログラムは、運動前のウォームアップと運動後のクールダウンを含み,有酸素運動とレジスタンス運動から構成されます。(下図参照)
運動処方の内容
実際、運動処方を行うにあたって考慮すべき内容は以下の通りです。
- 運動様式(運動の種類)
- 運動を行う頻度
- 運動強度
- 運動の持続時間
患者さんの状態に合わせて、どのような種類の運動が適しているのか、運動強度や時間はどのくらいが適切かなど、具体的な評価をもとに処方します。例えば、運動耐容能の改善を目的として「有酸素運動」を多く行うのか、あるいは筋力改善に重きをおいて「レジスタンストレーニング」を多く取り入れるのか、なども考慮するポイントとなります。
運動処方に必要な評価
運動耐容能の評価
運動処方の「強度」を設定する上で欠かせないのが、運動耐容能の評価です。
運動耐容能の評価方法としては、NYHA心機能分類などについての問診、Specific Activity Scale(SAS)などの質問票、6分間歩行試験、心肺運動負荷試験(CPX)などがありますが、CPXが最も信頼できる運動耐容能の客観的指標とされています。
運動耐容能の評価は、予後予測や運動療法に伴うリスクの層別化、運動処方とその効果判定、心臓移植やその他の高度治療の適応検討や効果判定を目的に行われます。
サルコペニア・フレイルの評価
高齢心不全患者さんの増加に伴い、サルコペニアやフレイルなどで身体機能が低下した方が増加しています。(参考:高齢心不全患者さんのリハビリ)
筋力やバランス能力を評価し、患者さんの身体機能を把握して、運動処方を行います。
具体的には、筋力の評価では膝伸展筋力、握力、下肢筋肉量測定などが挙げられ、バランス機能評価では、片脚立位時間、Functional Reach試験、Timed Up and Go試験などが挙げられます。
また、SPPBという簡便な包括的下肢機能評価も、有効な評価方法の一つです。
では、続いて有酸素運動とレジスタンス運動それぞれの「運動プログラム」について、具体的にみていきましょう!
有酸素運動の実際
有酸素運動の運動様式
有酸素運動の種類には、歩行、自転車エルゴメータ、トレッドミルなどがあります。
歩行は速度によって強度を調整し、心不全の増悪に注意しながら持続時間を増やしていきます。エルゴメータやトレッドミルは機器で定量的な強度設定が可能です。患者さんの下肢の状態や、退院後の継続のしやすさなどを考慮し、生活に合った運動様式を選択することも重要です。
有酸素運動の頻度
運動の頻度は週3~5回が目安ですが、重症例では週3回程度が適当とされています。
有酸素運動の強度
CPX検査を行っている場合は、以下の強度を目安に運動を実施します。
- 最高酸素摂取量(Peak VO2)の40~60%
- 心拍数予備能(HRR=最高HR-安静時HR)の30~50%
- 最高心拍数の50~70%
- 嫌気性代謝閾値(AT)の心拍数
CPX検査が実施できない場合は、Borg指数11~13(楽である~ややつらい)、心拍数が安静座位時+20~30/min程度でかつ運動時の心拍数が120/min以下の強度を目安に運動負荷量を調整します。
有酸素運動の持続時間
有酸素運動は5~10分×1日2回程度から開始し、20~30分/日へ徐々に増やしていきます。
レジスタンストレーニングの実際
レジスタンス運動の様式
レジスタンストレーニングは、ゴムバンド、足首や手首への重錘、ダンベル、フリーウェイト、ウェイトマシンなどの運動負荷を用いて行われます。
回復期でのレジスタンストレーニングは、筋力・筋持久力向上の目的以外にも、徐脂肪体重の増加、インスリン感受性の改善、転倒予防、自己効力感の改善、腰痛や肥満などの慢性疾患の予防・管理などが目的となります。
レジスタンス運動の頻度
レジスタンストレーニングの頻度の目安は2~3 回/週です。
レジスタンス運動の強度
心不全回復期~維持期のレジスタンストレーニングは低強度から中強度で実施します。
具体的には、上肢運動は1 RMの30~40%,下肢運動では50~60%、1セット10~15回反復できる負荷量で、Borg指数13(ややつらい)以下の強度を目安に行います。
レジスタンス運動の持続時間
レジスタンストレーニングは10~15回を1セットとし、1日1~3セット実施します。
運動内容・強度の見直し
上記に示した運動内容は、あくまでも目安なので、運動内容や強度は適宜見直しが必要です。
心不全の状態が安定した状態でこれらの運動を開始しますが、運動による負荷が強すぎると心不全増悪を引き起こしてしまう場合があります。
以下のような兆候が運動中や前後に見られる場合は、心不全あるいは全身状態の悪化が疑われますので、経過を観察し運動負荷量の再検討を行うとともに、場合によっては主治医への報告が必要となります。
• 体液量貯留を疑う2 kg以上の体重増加
※3日間で増加→直ちに対応、7日間で増加→監視強化
• 運動強度の漸増にもかかわらず収縮期血圧が20 mmHg以上低下し、末梢冷感などの末梢循環不良の症状や徴候を伴う
• 同一運動強度での胸部自覚症状の増悪
• 同一運動強度での10/min以上の心拍数上昇または2段階以上のBorg指数の上昇
• 経皮的動脈血酸素飽和度が90 %未満へ低下、または安静時から5%以上の低下
• 心電図上、新たな不整脈の出現や1 mm以上のST低下
なお、心不全増悪の要因は様々ありますので、治療経過についても注視しておく必要があります。
患者さんの日々の細かな変化にも目を配りましょう!
その他の注意事項
慢性心不全回復期~維持期のリハビリは、原則として開始初期は監視型、安定期では監視型と非監視型(在宅運動療法)との併用で実施します。
経過中は常に自覚症状や体重、血中BNPまたはNT-proBNPの変化に留意することが重要です。
また、定期的に症候限界性運動負荷試験などを実施して運動耐容能を評価し、運動処方を見直します。運動に影響する併存疾患(整形疾患、末梢動脈疾患、脳血管・神経疾患、肺疾患、腎疾患、精神疾患など)の新規出現の有無、治療内容の変更の有無についても、確認を行いましょう。
心不全回復期~維持期の心臓リハビリのまとめ
- 心不全回復期から維持期の運動療法についてまとめました。
- 患者さんの病態把握や身体機能評価に基づいた「運動処方」はとても大切です。
- 個々の患者さんにとって、今何が必要なのか、どのくらいの運動強度が最適なのかを見極めて運動処方を行います。
- 運動療法を含む「包括的な心臓リハビリテーション」によって、慢性心不全患者さんの予後改善や再入院予防を目指しましょう!
- 最後までお読みいただきありがとうございました。この内容の1つでも参考になれば幸いです。
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