あなたは「脚気」という病気を聞いたことがありますか?
「脚気」は慢性的にビタミンB1が不足することで、「手足がしびれる」「食欲不振」「心不全」など様々な症状が出る病気です。
今はあまり知られていない病気だと思いますが、一昔前は多くの人がかかり、最悪の場合は死に至るような病気でした。
脚気の原因がビタミンB1不足であることが分かったことと、食糧事情の改善により、脚気の患者さんは減少しましたが、現代人にも注意が必要な病気です。
体内でのビタミンB1の役割
ビタミンB1は「チアミン」とも呼ばれる水溶性のビタミンで、体の活動の源となる糖質の代謝に欠かせない栄養素です。
ビタミンB1は体内に吸収されるとリン酸化され、おもにチアミン二リン酸(ThPPまたはThDP)の形で存在します。
食事で摂った糖質は、体内で酵素の働きによりエネルギーに変換されますが、酵素の働きを助ける補酵素としてチアミン二リン酸が関与しています。
ビタミンB1は、摂取した糖分をエネルギーに変える手助けをしているんですね!
また、体の活動だけでなく脳が働くためには大量のエネルギーを必要とするため、ビタミンB1は脳・神経の働きを正常に保つ役割もしています。
ビタミンB1が不足して起こる症状は?
ビタミンB1不足の症状
では、ビタミンB1が体に不足した状態が続くとどのような症状が起こるのでしょうか?
代表的な症状は下図に示すものです。
初期の症状としては、「全身の倦怠感(疲れやすさ)」、「食欲不振」などが表れます。これは糖質がスムーズにエネルギーに変換されなくなり、乳酸などの疲労物質が体にたまることで起こる症状です。
また末梢神経や中枢神経に異常が生じることで、「手足の先に痛み」や「しびれ」が出るようになります。さらに進行すると「筋力低下」や「感覚障害」が生じ歩行が困難になります。「集中力の低下」や「イライラ、不安」などの症状も起こることがあります。
さらに重症化すると心臓機能が低下し「心拍数の増加(動悸)」、「手足のむくみ」などの症状が表れます。急に心筋虚脱を生じる脚気衝心(または脚気心)が出ることもあり、最悪の場合は心不全により死に至ります。
ぴんころ
ビタミンB1不足で、全身にこんなに大変な症状が起こるんですね!
ビタミンB1欠乏症の検査
まずは問診で、症状や生活状況(食生活、運動状況、アルコール摂取量など)を確認します。
症状からビタミンB1不足が疑われた場合、血液検査が行われます。血液検査で血中のビタミンB1を測定することが可能です。
また、昔から「脚気の検査」として有名なのが膝蓋腱反射テストです。膝のお皿の骨の下を叩くと跳ね上がる反射が起こるかどうかを検査しており、末梢神経障害がある場合は反射が低下あるいは消失します。
その他に考えられる検査としては神経伝導系検査、胸部単純レントゲン写真、心エコー、心電図などが挙げられます。症状や重症度によって必要な検査が考慮されます。
どのような人がビタミンB1不足になりやすい?
まず、食習慣に注意が必要です。偏食や無理なダイエットでビタミンB1の摂取量が不足する可能性があります。
ビタミンB1はアルコールの分解にも多く使われるため、アルコールの多量摂取は不足の原因となります。
また、妊娠・授乳、激しい運動などで、ビタミンB1の需要量が増加することで不足に陥ること可能性があることにも注意が必要です。
ビタミンB1の摂取量が十分であっても、胃切除後や慢性的な下痢などで栄養素の吸収が上手くいかない場合も不足する場合があります。
ビタミンB1の摂取量そのものが不足する場合と、需要量が増えることで欠乏する場合があるんですね!
食生活やアルコールについては、すぐに改善の取り組みが出来そうです。
ビタミンB1を多く含む食品は?
- 玄米
- 豚肉
- レバー
- たらこ
- ウナギ
- インゲン豆
- 枝豆
- 大豆製品(豆腐、納豆など)
- ナッツ(落花生、アーモンドなど)
- のり
- ゴマ
玄米には白米の約4倍ものビタミンB1が含まれています。
その他、上記のような食品に多く含まれているため、ビタミンB1の不足が考えられる方は、積極的に摂取することをお勧めします。
ビタミンB1を多く含み、コンビニなどで手軽に手に入れられるものとしては、「全粒粉パン」「玄米おにぎり」「枝豆」「パイナップル(カットフルーツ)」「バナナ」などが挙げられます。
どうしても食品から摂取出来ない場合は、サプリメントなどの利用を考慮します。
肉・魚・野菜・豆類・フルーツなどをバランスよく食べていたら、ビタミンB1が極端に不足することはなさそうです!
ビタミンB1は1日にどのくらい必要?
ビタミンB1の必要量
では、1日にどのくらいのビタミンB1を摂取する必要があるのでしょうか。
「mg」で表される量では、摂取量をイメージしにくいと思いますが、厚生労働省の資料によると、 「ビタミン B1 を完全に除去した食事が2週間以上続くと脚気の症状が起こる場合がある」ことや、「摂取量が 1,000 kcal 当たり 0.16 mg を下回ると脚気が出現するおそれがある」ことが示されています。
また、「1,000cal 当たり 0.3 mg 以上であれば脚気が発生する可能性はほとんどないものと考えられる」という記述もあり、通常のバランスの良い食事を続けていれば、症状が出るほどの欠乏になる心配は少ないと考えられます。
ただし、妊娠・授乳中の方や肉体労働をされる方は、ビタミンB1の需要量が増えるため、通常の人より意識的に摂取した方が良いと思います。
過剰摂取の心配は?
ビタミンB1を過剰に摂取した場合に関してですが、ビタミンB1は水溶性のため、摂り過ぎた分は尿中に排泄されるため、過剰症になる心配はありません。
ビタミンB1摂取の注意点・ポイント
ビタミンB1を摂取する上でまず注意する点は、上述した「水溶性」という点です。
水に溶けやすく、熱やアルカリに弱いため調理のときに失われてしまうことが少なくありません。さらに、摂取しても体に吸収されにくく、吸収された後も体外へ排泄されやすいという特徴があります。そのため、食品はできるだけ新鮮なものを選び、生で摂取できるものを選ぶと無駄なくビタミンB1を摂取できます。
また、ビタミンB1は他のビタミンB群と互いに協力し合って働くことが知られており、同時に摂取すると効果的です。
さらに、ニンニク、玉ねぎ、にらなどに多く含まれる「アリシン」と一緒に摂取することで、ビタミンB1と結びつき、その効果を持続させる働きがあるため、これらも同時に摂取すると有効です。
ビタミンB1欠乏についてのまとめ
- ビタミンB1欠乏症、脚気について解説しました。
- 様々な栄養素の不足について共通して言えることですが、まず基本となるのは「バランスの良い食事」や「アルコ―ルを適正量に保つ」ことかなと感じます。
- 旬の様々な食べ物を美味しく食べることで、心も体も健康に保ちたいですね。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考 ・林睦晴、井澤英夫;心筋疾患 脚気心.日本臨床.77.371‐375.2019 ・厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020 年版)
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