認知症の有病者数の推移
日本における65歳以上の認知症の人数は2020年時点で約600万人と推計され、2025年には約700万人になると予想されています。
各年齢の有病率が今と変わらない場合でも、高齢化が進む日本では認知症の有病者数は今後も増え続けます。
今後は高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されており、認知症の予防に向けた取組が重要です。
でも、認知症って予防できるんですか?
はい!最近の研究では、認知症のリスクになる因子が明らかになっていて、それらの危険因子の予防に取り組むと認知症の約40%を予防できる可能性があります。
ほう、それはすごいですね!ぜひ教えてください。
認知症における「修正可能な危険因子」とは
2020年に、英国の医学雑誌「LANCET」で「認知症における修正可能な危険因子」が報告されました。
2017年に9つの危険因子が発表されましたが、2020年に3つが追加となり、現在12の危険因子が報告されています。
これは、28人の認知症の専門家たちによって構成されるランセット国際委員会が、体系的な文献レビュー、メタ分析、および個々の研究を含む、あらゆるエビデンスについて綿密な調査を行ったものです。
若年期のリスク因子
若いうちの「教育歴の低さ」(=義務教育を受けていない) は認知症の発症に大きく関わる要因となりますが、日本では問題となる方は少ないと思います。
また、年を取ってからも様々なことに興味を持ち、新たなことにチャレンジする「知的好奇心」が認知機能を保つのに重要と言われています。
中年期のリスク因子
現在のところ、認知症の発症に最も大きく影響していると考えられているのは「難聴」です。
「頭部の外傷」も認知症発症の要因となるため、日頃から頭をケガから守るように心がける必要があります。
また、「肥満」や「高血圧」「アルコールの過剰摂取」も認知症のリスクになるため、生活習慣の改善が認知症の予防にもつながります。
高齢期のリスク因子
「喫煙」は癌など様々な病気の発生リスクを上昇させますが、認知症のリスクも上昇させることが分かっています。
また、「社会的孤立」や「身体不活動(運動不足)」「うつ病」など、人との関わりを持たず、体も動かさないことは認知症発症の要因の1つとなります。
「糖尿病」は腎機能障害や網膜症、末梢神経障害が3大合併症として知られていますが、認知症も合併症の1つです。
「大気汚染」は世界的な問題ですが、まずは個人でできる取り組み(省エネルギーに配慮する、公共交通機関を利用する、地産地消を心がけるなど)から始めることが大切かもしれません。環境を守ることが認知症を予防することにもつながるとは驚きですよね。
今日から出来る認知症予防
リスク因子について分かったところで、今日から早速できる認知症予防のための行動について考えてみましょう。
1)耳を大切に
「難聴」が認知症のリスク因子となるため、若いうちから耳を大切にすることが重要です。
最近はイヤホンで音楽を聴いたりや動画を視聴したりする機会が増えましたが、音量に注意する必要があると思います。
また、聞こえづらさを自覚したら、早めに耳鼻科を受診し治療や補聴器の使用を検討することが認知症の予防行動ともなります。
2)自転車に乗るときはヘルメットを
「頭部外傷から自分の身を守る」ために、自転車に乗るときはヘルメットの着用をするといいと思います。
現在自転車でのヘルメット着用は「努力義務」となっていますが、最近ではオシャレなヘルメットも多数発売されているため、着用を検討してみてはいかがでしょうか。
また、自動車での安全運転やシートベルト着用についても頭部外傷から身を守るためには重要です。
3)適正な体重を維持する
BMI(体重(㎏) ÷ 身長(m)2)が30以上の肥満は、認知症の危険因子となるため、太り過ぎには注意が必要です。
バランスの良い食事や下記の運動習慣の獲得で、健康的に適正体重の維持に努めましょう。
4)運動習慣を持つ
「運動習慣を持つこと」は、それ自体が認知症を予防するだけでなく、肥満の抑制、血圧降下、糖尿病のコントロールなど他のリスク因子の是正にもつながるため、一石三鳥とも四鳥ともいえる取り組みです。
ウォーキングなどの有酸素運動や、筋力トレーニングをバランスよく行うことが推奨されています。
5)禁煙と節酒
「喫煙」による人体に対する影響は一般に「喫煙本数×年数」で算出されます(ブリンクマン指数)。
喫煙は吸う本数が多い程、期間が長い程、体に影響を及ぼすので禁煙に遅いということはなく、決心したその日から禁煙することが重要です。また、受動喫煙にも十分に注意しましょう。
「飲酒」については適正量を保ったり、休肝日を設けるなどの工夫が必要です。1日あたりの適切な飲酒量は男性では純アルコール20g(日本酒なら1合、ビールなら500mL、ワインなら200mL)で、女性は10gが目安となります。
6)高血圧や糖尿病の予防・治療
「高血圧」は、脳卒中(脳出血、脳梗塞)を引き起こす大きな要因の一つです。脳卒中を発症した後に、認知症が起こることがあります。
血圧は40歳前後から中年期に収縮期血圧130mmHg以下の維持を目指します。
血圧が高めの方は減塩を心がけ、高血圧の薬を処方されている方はきちんと服薬することが、認知症予防につながります。
「糖尿病」は脳卒中を引き起こして血管性認知症につながることが知られていますが、近年ではアルツハイマー型認知症の一因でもあることがわかってきています。さまざまな合併症を引き起こす原因となる糖尿病は、予防と適切な治療が本当に重要です。
7)趣味を持つ・人と関わる
人と関わりを持たず、家にこもりがちになる「社会的孤立」は脳をあまり使わない生活となり、認知症の原因となります。
家庭内の役割を持つことや、趣味の活動を通して他人と会話する機会を増やすことが認知症の予防につながります。
知的好奇心を持ち、何歳になっても新しいことに挑戦するなどの「ポジティブな取り組み」が大切ではないでしょうか。
認知症予防についてのまとめ
- 認知症の修正可能な12の危険因子についてまとめました。
- 認知症は将来誰もがなる可能性がある病気の一つです。認知症治療に関しての研究も進んでいますが、予防もとても大切です。
- 若いうちからできる取り組みを知ることで、認知症を発症される方が一人でも少なくなるといいなと思います。
- この記事の内容が少しでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献 ・Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):413-446.
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