電解質異常とは
体における電解質の役割
「電解質」とは、水に溶けると陽イオンと陰イオンに分かれる(電離する)物質をいいます。
水に溶けた電解質は高い電気伝導性をもち、体の水分量や浸透液のバランスを保つのと同時に、神経伝達および筋肉の運動にも深く関わっています。
体内に存在する代表的な電解質は以下のものが挙げられます。
- ナトリウム(Na)
- カリウム(K)
- カルシウム(Ca)
- マグネシウム(Mg)
- クロール(Cl)
電解質異常になるとどうなる?
通常、人の身体は一定の状態を維持する恒常性(ホメオスタシス)という機能が備わっており、血液に関しても血液中のイオン濃度が一定値に調整され、身体のバランスを保っています。
体の何らかの異常あるいは薬剤などの影響により、体内の電解質のバランスが崩れた状態が「電解質異常」です。
電解質はそれぞれ、体内で重要な役割を果たしているため、そのバランスが崩れると、体内で多彩な症状を呈します。
電解質の異常は、血液検査や尿検査でチェックすることが出来ます。
ここからは、「ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・クロール」の 5つの電解質について、各電解質の役割と異常が起こった時の症状、考えられる疾患についてお伝えします。
電解質異常の症状
ナトリウム(Na)
ナトリウムの役割
ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンで、体液の浸透圧を一定に保つ働きがあり、血圧の調整に密接に関係しています。
また、神経や筋肉の刺激伝達を助け、酸塩基平衡の調節を行います。
ナトリウム値の異常で生じる症状
低ナトリウム血症 | 意識障害、頭痛、食欲不振、倦怠感、手足のつりや脱力 |
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高ナトリウム血症 | 意識障害、口渇 |
ナトリウムの基準値と関連する疾患
基準値 | 138~145mmol/L |
低値の場合 | 感染症、大量の水分摂取、腎不全、心不全、甲状腺機能低下症など |
高値の場合 | 脱水、尿崩症、糖尿病、クッシング症候群、アルドステロン症など |
カリウム(K)
カリウムの役割
カリウムは生命維持に重要な電解質の一つです。
細胞内液の主要な陽イオンで、ナトリウムとともに体液の浸透圧や酸塩基平衡の維持に関与します。
特に心筋の収縮など、神経や筋の活動に重要な働きをしています。
また、カリウムは腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制して、尿中への排泄を促進するため、血圧を下げる効果があります。
カリウム値の異常で生じる症状
低カリウム血症 | 手足のつりや脱力、筋肉の痙攣、不整脈、心筋障害 |
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高カリウム血症 | 軽症例:多くは無症状、手足のつりや脱力 重症例:危険な不整脈(時に心停止) |
重度の高カリウム血症の場合、致死性の不整脈が発生しやすいため、直ちに治療が必要!
カリウムの基準値と関連する疾患
基準値 | 3.6~4.8mmol/L |
低値の場合 | 嘔吐、下痢、利尿剤の使用、摂食障害、クッシング症候群など |
高値の場合 | 腎不全、糖尿病、アジソン病など |
カルシウム
カルシウムの役割
カルシウムは体内で最も多く存在するミネラルで、骨や歯の構造と機能を支えています。
体内のほとんどのカルシウムは骨や歯に蓄えられていますが、筋肉細胞で心筋や骨格筋の収縮を助ける、血液中で血液の凝固に関与するなどの需要な役割も担っています。
カルシウム値の異常で生じる症状
低カルシウム血症 | 手足のつりや脱力、皮膚の乾燥、痛みを伴う痙攣 |
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高カルシウム血症 | 意識障害、口渇、多尿、食思不振、悪心、嘔吐 |
カルシウムの基準値と関連する疾患
基準値 | 8.8~10.1mg/dL |
低値の場合 | 副甲状腺機能低下症、ビタミンD欠乏症、急性膵炎、慢性腎不全など |
高値の場合 | 副甲状腺機能亢進症、多発性骨髄腫、悪性腫瘍、運動不足など |
マグネシウム
マグネシウムの役割
マグネシウムは、体内の300種類以上の酵素の働きを助ける役割があり、生命維持に必要な多くの代謝に関与しています。
また、カルシウムやビタミンDとともに骨の形成に関与したり、筋肉や神経の機能維持をしたりと、体内で幅広く活躍しています。
マグネシウム値の異常で生じる症状
低マグネシウム血症 | 手足のつりや脱力、食思不振、悪心、嘔吐、振戦 |
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高マグネシウム血症 | 血圧低下、呼吸抑制、(重症の場合)心停止 |
マグネシウムの基準値と関連する疾患
基準値 | 1.8〜2.4 mg/dL |
低値の場合 | マグネシウム摂取量の不足、下痢大量飲酒、授乳など |
高値の場合 | ※高マグネシウム血症は稀な病態 腎不全で特定の薬剤で治療を受けている方に発症する場合が多い |
クロール
クロールの役割
体内のクロールの大部分はナトリウムとともに存在し、水分保持や浸透圧の調節に関わります。
また、胃液の塩酸成分としてペプシンの活性化にも関与しています。
クロール値の異常で生じる症状
低クロール血症 | 特になし(原因疾患の症状) |
高クロール血症 | 特になし(原因疾患の症状) |
血清クロール値の異常自体が特定の症状を呈することはありませんが、クロール値は生体内の酸-塩基平衡を知る指標として、極めて重要な指標となります。
クロールの基準値と関連する疾患
基準値 | 101~108 mmol/L |
低値の場合 | 嘔吐、下痢、肺炎、腎障害など |
高値の場合 | 過換気症候群、脱水、腎不全など |
電解質異常のときの心電図変化
電解質異常の時に生じる心電図変化について以下にまとめます。
電解質異常 | 心電図変化 |
低カリウム血症 | QT時間の延長、U波の出現、T波の平坦化、ST低下 |
高カリウム血症 | QT時間の短縮、テント状T波、伝導障害(心房、房室結節、心室) |
低カルシウム血症 | QT時間の延長、STの延長 |
高カルシウム血症 | QT時間が短縮、STの短縮 |
カリウムやカルシウム値に異常がでると、このような心電図変化が起こるのですね。
高齢者に多い電解質異常の特徴
高齢者は、若年者に比べて電解質異常を起こしやすいと言われています。
その理由としては、基礎疾患を有する割合が多く、腎臓をはじめとする各臓器の機能低下により電解質異常を起こしやすい状況にあります。
基礎疾患に対する薬剤(利尿薬、降圧薬、ステロイドなど)も電解質異常の原因の1つです。
また、加齢に伴う筋肉量の減少や、のどの渇きの気づきにくさなどにより脱水が容易に起こるため、高齢者の身体的特徴からみても電解質異常が起こりやすいことが分かります。
電解質異常が起こっていても、症状に気づかないまま重症化する恐れもあるため、電解質異常が起こりやすいことを把握した上で注意深く関わっていくことが重要です。
電解質異常のまとめ
- 電解質の異常で生じる症状や、原因として考えられる病態についてまとめました。
- 体内のバランスが少し崩れるだけでも、とても多彩な症状が起こり、時には命にも関わることがあるため、知っておく必要がある知識だと改めて感じます。
- 今回の内容が一つでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
(参考) 1)水・電解質異常、酸塩基平衡の異常:診断と治療 vol.109 no.3.2021 2)電解質に影響を与える薬剤:Nutrition Care vol.15 no.8.2022 3)水電解質異常:日腎会誌 vol.44 no.1.2002
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