こんにちは、心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
理学療法士として急性期病院に勤務し、心臓リハビリに携わっています。
今回のテーマは、心臓リハビリのリスク管理をする上で重要な『積極的な運動療法が禁忌となる疾患・病態』についてです。
心臓リハビリをする時に、多くの人まず最初に思うのはこのような事ではないでしょうか?
心不全の患者さんにリハビリ処方が出たけど、どの程度の事をしたらいいんだろう。
何に気をつけたらいいのかな?
リハビリしている時に、もしもの事があったらどうしよう?
あまり無理をしない方がいいのかな。不安だな。
私自身、初めて心疾患の患者さんを担当するときは不安だらけで、かなり慎重にリハビリしていました。
でも色々と勉強していくうちに、正しい知識を身につけて心臓リハビリを行えば、必要以上に恐れることはないと感じています。
実際にガイドラインには以下のように記載されており、心リハの安全性が示されてます。
心リハの安全性に関する報告について,日本心臓リハビリテーション学会が推奨する心リハプログラムに基づく運動療法においては,277,721人・時間あたりのイベント(AMI,心停止,死亡)発生がなかったとされ,心不全に対する運動療法についても,運動療法実施群と非実施群においてイベントに差がなかったことが報告されている
日本循環器学会 / 日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン:「2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」より引用
運動療法の禁忌の理解は、リスク管理の基本となりますので、しっかり理解していきましょう!
積極的運動療法の絶対的禁忌
では、「2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」を参考に、 運動療法が原則禁忌となる場合について確認していきましょう。
- 不安定狭心症または閾値の低い(平地のゆっくり歩行[2MET]で誘発される)心筋虚血
- 過去3日以内の心不全の自覚症状(呼吸困難,易疲労感など)の増悪
- 血行動態異常の原因となるコントロール不良の不整脈(心室細動,持続性心室頻拍)
- 手術適応のある重症弁膜症,とくに症候性大動脈弁狭窄症
- 閉塞性肥大型心筋症などによる重症の左室流出路狭窄
- 急性の肺塞栓症,肺梗塞および深部静脈血栓症
- 活動性の心筋炎,心膜炎,心内膜炎
- 急性全身性疾患または発熱
- 運動療法が禁忌となるその他の疾患(急性大動脈解離,中等症以上の大動脈瘤,重症高血圧 ,血栓性静脈炎,2週間以内の塞栓症,重篤な他臓器疾患など)
- 安全な運動療法の実施を妨げる精神的または身体的障害
この10項目が絶対的禁忌となる疾患・病態です。
心臓リハビリテーション指導士のテストでも出題されやすい項目ですが、個人的には全部そのまま暗記してもあまり意味はないと思います。
重要なのは「なぜ禁忌なのか?」「それはどういう状態なのか?」を理解しておくことです。なぜなら、それが理解できていれば、ここに書かれている病態以外でも、自分で考えてリスクを考えた臨機応変な対応を実行できるからです。
絶対的禁忌とされている項目で共通するキーワードとして、「急性」、「不安定」、「重症」などが挙げられます。つまり病態が安定しておらず、運動療法を行うことで、状態を悪化させてしまう恐れがあるということです。
運動療法を行う前提として、『安静時の血行動態が保たれていること』が重要です。
「⑵心不全の増悪時」、「⑶コントロール不良の不整脈」、「⑸左室流出路狭窄」、「⑹肺塞栓症」「⑼運動療法が禁忌となる疾患」は安静の状態でも心臓や肺に負担がかかっている状態であり、この状態で運動をすることは負担を助長させることになります。⑺⑻の身体に急性炎症が生じている場合も、運動により体への負担の増大が予想されるため運動には適さない状態です。
「⑴不安定狭心症」は、安静時・運動時を問わず狭心症症状が出現する可能性があるため、運動を行うことはリスクが高いといえます。また、「閾値が低い(2METsで誘発される)心筋虚血」の状態というと、屋内での生活もままならない状態なので、まず治療が優先されリハビリをする段階ではありません。
「⑷手術適応のある重症弁膜症、特に症候性大動脈弁狭窄症」に関してですが、最近は弁膜症の治療の進歩により、従来の開胸手術だけでなくカテーテルを使用した低侵襲の治療ができるようになりました。そのため治療適応が広がり、高齢の患者さんも弁膜症の治療される機会が増えています。弁膜症にもいろいろな種類がありますが、いずれにしても重症弁膜症になると少しの活動で息切れや動悸を感じる方が多く、いわゆる「運動耐容能が低い」状態になります。そのため、弁膜症自体が治療可能な方に関しては、治療を終えてからしっかりとリハビリを行うのが望ましいといえます。
しかし、実際には超高齢であったり、フレイルが進んでいたり、認知症があるなどの理由で治療適応にならない重症弁膜症患者さんは少なからずおられます。この方たちにリハビリ的介入を何もしなかったとすると、すぐに寝たきりになってしまいます。そのため、私たちの病院では主治医と相談しながら、ADL維持を目的に重症弁膜症患者さんへ介入することがあります。患者さん個々の病態を理解した上で、十分なリスク管理をして実施しているというのが現状です。
「⑽ 安全な運動療法の実施を妨げる精神的または身体的障害 」に関しては、リハビリ自体が安全に行えない状態ということなので、心疾患の有無に関わらず運動療法は困難だと思います。
相対的禁忌
- 重篤な合併症のリスクが高い発症2日以内の急性心筋梗塞
- 左冠動脈主幹部の狭窄
- 無症候性の重症大動脈弁狭窄症
- 高度房室ブロック
- 血行動態が保持された心拍数コントロール不良の頻脈性または徐脈性不整脈(非持続性心室頻拍,頻脈性心房細動,頻脈性心房粗動など)
- 最近発症した脳卒中
- 運動負荷が十分行えないような精神的または身体的障害
- 是正できていない全身性疾患
次に相対的禁忌ですが、上述の絶対的禁忌に比べると「絶対にダメ!」というニュアンスは少なくなりますが、こちらも運動療法に伴うリスクは十分にある状態なので理解しておきましょう。
「⑴重篤な合併症の高い心筋梗塞」とは、貫壁性の広範囲前壁心筋梗塞,ST上昇が遷延するものなどです。「貫通性」というのは心内膜側・心内膜側両方が虚血に陥っている状態で、その部分の血流が途絶えている(閉塞している)ことを示します。「前壁」は左前下行枝(LAD)領域なので、つまり左冠動脈領域の心筋血流が広範囲に途絶えている状態で心筋梗塞の中でも重症です。「ST上昇」は心筋梗塞の発症直後に生じる心電図変化なので、それが遷延している場合も注意が必要です。
心筋梗塞急性期に注意すべき合併症は、不整脈、心不全、心原性ショック、心破裂などが挙げられます。
⑵について、「左冠動脈主幹部」は左冠動脈の根本にあたる部分で、この部分に梗塞が起こったとすると左前下行枝・左回旋枝どちらにも血流がいかない状態となり、とても危険な状態になりうるということを知っておく必要があります。
⑶の重症大動脈弁狭窄(AS)については、たとえ無症候であっても病気があると分かった時点から、運動療法には細心の注意を払うべきです。大動脈弁狭窄症とは、左心室から全身に血流を送り出す通り道が狭く・固くなっている状態なので、心臓ががんばって動いても血液が全身へ運ばれにくいということを理解しておきましょう。さらに、大動脈弁狭窄症は失神や心不全症状などを起こし、病態が進展するにつれて予後が悪くなる病気なので、このようなイベントを起こさないことが、まず大切なことです。運動療法を行ったことで予後を悪くしてしまったら意味がないので注意しましょう。
「⑷高度房室ブロック」「⑸ 心拍数コントロール不良の不整脈」など、極端な徐脈あるいは頻拍にも十分な注意が必要です。徐脈の場合、心臓から血液が駆出される回数自体が少ないため、運動によって各筋肉に血流が必要となっても、それを補うだけの血液が確保できません。通常運動をすると血圧をあげたり、心拍数を上げることでこれに対応するのですが高度房室ブロックの場合は、その反応が起こりません。
反対に1分間に120~130回を超えるような極端な頻拍の場合は、心臓に十分な血液が溜まるまでの時間が足りず、収縮ばかりを繰り返すいわゆる「空打ち」のような状態になってしまい、これも運動に対応するだけの血流をえることができません。徐脈・頻拍性の不整脈で重要なのは、事前に安静時(就寝時を含む)の脈拍や、食事やベッド周囲での動作をしたときの脈拍を確認することです。入院中の不整脈がある患者さんは、心電図モニターをつけておられるのでリコールなどで確認し、安静時と動作時の脈拍の差を確認することで動作時の脈拍の推移がある程度予測できます。徐脈の患者さんでトイレ動作をしても全く脈拍が上がらず、動作後ひどく疲れている場合や、頻拍の患者さんで食事中にさらに頻拍がひどくなっている場合などは、運動療法の適応にはならないでしょう。
⑻の全身疾患とは、貧血、電解質異常、甲状腺機能異常などを指しています。これらは心不全の増悪要因となったり、重症不整脈誘発の要因になる場合があるので注意しましょう。
禁忌でないもの
- 高齢者
- 左室駆出率低下
- 血行動態が保持された心拍数コントロール良好な不整脈(心房細動,心房粗動など)
- 静注強心薬投与中で血行動態が安定している患者
- 補助人工心臓(LVAD),植込み型心臓電気デバイス(永久ペースメーカ,植込み型除細動器〔ICD〕,両室ペーシング機能付き植込み型除細動器〔CRT-D〕など)装着
こちらは、禁忌なように思われそうですが禁忌ではないものです。これも「2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」 に示されています。
「⑴高齢者」は心臓リハビリの適応であり、これから高齢の心不全患者さんはどんどん増加していきます。
「⑵左室駆出率低下」いわゆるHFrEFも心臓リハビリの適応で、効果のエビデンスに関しても多数報告されています。
⑶に関しては、禁忌の中に不整脈の記述がありましたが、心房細動や心室粗動などで心拍数が正常範囲内でコントロール出来ている場合は例外となります。これらの不整脈を有している患者さんは非常に多く、投薬での脈拍コントロールやカテーテルアブレーションなどの治療が行われますが、極端な頻拍や徐脈でない限りはリハビリは通常通り行われることが多いです。
⑷や⑸に関しても、病態が安定している場合はリハビリの適応となっています。その時々の病態を把握しながら、主治医をはじめとする多職種と連携してリハビリを進めていきます。
心臓リハビリテーションの運動中の中止基準については、以下の記事にまとめていますので、こちらもぜひ参考にしてみて下さい。
まとめ
- 心臓リハビリの積極的な運動療法の禁忌ついてまとめました。
- 安全で効果的な心臓リハビリを行うために、ぜひ理解しておきたい内容です。
- 私自身もまだまだ勉強中の身ですが、心疾患の患者さんへのリハビリを自信を持って行うために、一緒に知識を深めていきましょう!
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
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