【心臓リハビリ】これだけはおさえたい運動中のモニタリング指標

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運動中のモニタリングの重要性

リハビリで運動を行うにあたり、「運動で体にどれくらいの負荷がかかっているのか」「運動強度は適切か」ということを確認することは非常に大切です。

これを確認するためには、運動中のモニタリングがかかせません。そこで疑問となるのが以下のことではないでしょうか。

どのような項目をモニタリングするのか?

この記事では、日本呼吸・循環器合同理学療法学会2023で、循環器理学療法評価の標準化を目的とした「急性期ミニマムスタンダード」の中で推奨されていた「運動中のモニタリング指標」の内容をもとにお伝えしています。

ぴんころ
ぴんころ

運動療法を行うにあたり必ず押さえておきたいモニタリング項目は以下のものが挙げられます!

一つずつ確認していきましょう。

  • バイタルサイン
  • 二重積(ダブルプロダクト;DP)
  • 経皮的酸素飽和度(SpO2)
  • Borg scale(ボルグスケール)
  • Talk test

この内容は、心臓リハビリテーションに限らず、どの疾患の運動療法にも応用できる知識だと思いますので、ぜひ最後までご覧ください!

客観的な指標

まずは客観的にモニタリング出来る指標です。各ガイドラインにおける「リハビリテーションの運動中止基準」と合わせて確認していきましょう。

バイタルサイン

血圧、脈拍は最も一般的なモニタリング指標で、測定することは簡単ですが、大切なのは「その結果をどのように解釈するか」ということです。

運動前後のバイタル変化:血圧、脈拍がどのように変化するのかを確認する

まず運動前(安静時)の血圧・脈拍を確認します。

「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」では、【積極的なリハを実施しない場合】として、バイタルについて以下のように記載されています。

  • 安静時脈拍40/分以下または120/分以上
  • 安静時収縮期血圧 70mmHg以下または 200mmHg以上
  • 安静時拡張期血圧 120mmHg以上以上

運動前の時点で上記の基準に当てはまる場合は、運動療法の実施自体を検討する必要があります。

次に運動中・運動後のバイタルを確認します。血圧と脈拍に加えて、呼吸数も確認するといいでしょう。

<リハビリテーション医学会の基準>

  • 脈拍が140/分を超えた場合
  • 運動時収縮期血圧が 40mmHg以上上昇
  • 拡張期血圧が 20mmHg以上上昇
  • 頻呼吸(30回/分以上)、息切れが出現した場合

<心リハ学会の基準(相対的中止基準)>

  • 血圧の低下(収縮期80mmHg未満
  • 血圧の上昇(収縮期250 mmHg以上、拡張期115 mmHg以上
  • 徐脈の出現(心拍数40/min以下

基本的には、運動により血圧と脈拍の過度な上昇または低下が生じた場合息切れが生じて呼吸が大きく乱れる場合運動の中止を検討します。

これらの所見は、循環動態が不安定になったり、身体や血管に過度な負担がかかっていることを意味します。変化を見逃さないようにしましょう。

ぴんころ
ぴんころ

ガイドラインの内容を参考に、自分なりの「バイタルの基準」をもっておくと、自信をもって安全な運動療法を提供できると思います!

二重積(ダブルプロダクト:DP)

二重積=収縮期血圧×心拍数

二重積とは「ダブルプロダクト」とも呼ばれ、上記のように収縮期血圧と心拍数の積で求められる値です。

これから何が分かるのかというと、「運動中の心臓への負荷」の程度を予測することができます。

人の体は、運動中に酸素を多く必要とするため、心臓からより多くの血液を体に供給する必要があります。

そのため、運動強度が上がると心臓の周りの血管(冠動脈)の血流量は増え、そこで消費される酸素量も増えます。

心臓を動かすために必要な酸素の量を「心筋酸素消費量」と呼び、これは運動により増加します。

二重積(ダブルプロダクト)は、「心筋酸素消費量」に強い相関を示す

つまり、二重積が増えるということは、心筋がより多くの酸素を必要としているということ、すなわち「心臓への負荷が増えた」ことを示しています。

ぴんころ
ぴんころ

収縮期血圧、心拍数が運動の中止基準に達していなくても、それぞれが上昇することで心筋酸素消費量が予想以上に増えていることがあるので注意が必要です!

ぴんころ
ぴんころ

運動前と運動後で「二重積が何%増加したのか」を把握しておくと、実施した運動ごとでの負荷量を知るのに役立ちます!

また、補足情報として、運動負荷の漸増によって二重積が急激に上昇するポイント(二重積屈曲点:DPBP)がATポイント(無酸素性作業閾値)と、良好な相関関係にあることが知られています。

経皮的酸素飽和度(SpO2)

客観的な指標としてもう一つ重要なのは経皮的酸素飽和度(SpO2)です。

運動中に経皮的酸素飽和度(SpO2)に以下の状況がみられたら、運動療法の中止の検討が必要となります。

  • SpO2が90%未満へ低下
  • 安静時からSpO2が5%以上の低下

既往に呼吸器疾患があり、もともとのSpO2が低い方は主治医と相談の上で中止基準を設けることが必要です。

また、指先に冷感があって血流が悪い方はSpO2が正確に測定できないことがあるため、「息切れの様子」や、次にお伝えする「主観的な指標」と合わせて判断しましょう。

主観的な指標

ここまでは、機械で数値を測定して判断する客観的な指標でしたが、ここからは、主観的な指標についてお伝えします。

Borg scale(ボルグ指数)

Borg scale(ボルグ指数)は、運動を行う本人が、運動中にどの程度の疲労度「きつさ」を感じているかを測定する指標です。

測定は以下のような表を用いて「非常に楽である」から「非常にきつい」までの自覚症状を6~20の数値で表してもらいます。

Borg指数:日本循環器協会HPより引用

実際には、運動後にこんな感じで質問します。

ぴんころ
ぴんころ

1.今の運動はどのくらい大変でしたか?

2.息切れや胸の苦しさはどのくらいでしたか?

3.では、足のつかれはどうでしたか?

患者A
患者A

途中から息切れがして少し大変でした。足はまだ動けそうなんですけどね。

(表を指さして)胸の苦しさは「13」くらいで、足の疲れは「9」くらいでした。

このように、胸部症状と下肢症状を分けて質問することで、「どの要素で運動に大変さを感じているか」ということを知ることができます。

例えば、心不全の症状で息切れが生じて運動が大変な場合と、フレイルが進んでいて下肢筋力が低下していて運動が大変な場合では、アプローチの方法は大きく異なります。

では心臓リハビリテーションの対象者をはじめとする、生活習慣病等の基礎疾患を持つ方に対してはどのくらいの自覚的運動強度が適切なのでしょうか?

目安となる運動は以下の通りです。

Borg指数11~13の強度を目安に運動する

その理由の一つは、Borg指数13の時の運動強度は、有酸素運動から無酸素運動に変わるATポイントの運動強度と相関することが知られており、「Borg指数11~13」は運動の効果が十分に得られて、かつ安全に行える運動強度とされているからです。

運動強度が弱すぎると効果が少ないですし、逆に強すぎると体への不安が大きくなってしまうので、適切な運動強度を設定できるよう心がけたいですね。

Talk test

最後にご紹介するのが「Talk test」です。これは読んで字のごとく運動中に「会話をする」方法です。

評価の方法は、有酸素運動の途中や運動後に患者さんに話しかけて、息切れの程度を観察します。

以下のような所見が確認されたら要注意です、

  • 途中で会話がとぎれるほど息がきれている
  • 不自然なタイミングの呼吸や明らかに大きな呼吸

一般的に、運動中に会話可能であれば有酸素運動の範囲内とされており、会話が難しくなった場合は有酸素運動の範囲を超えていると判断されます。

多くの場合、ATポイントに達すると呼吸数が増加し始めるため、ATレベル以下での運動を行おうとするならば、会話が可能な強度での有酸素運動を行うことが重要です。

運動中のモニタリング指標のまとめ

  • 運動中のモニタリング指標について、「客観的な指標」と「主観的な指標」にわけてお伝えしました。
  • 客観的な指標は「解釈の仕方」や、「そのとき体の中で何が起きているのか」を意識して測定することが重要です。
  • 主観的な指標と客観的な情報を合わせて、効果的で適切な運動強度での運動療法を提供できるのが理想ですので、ぜひ記事の内容を参考に運動中のモニタリングをしていただけたらと思います。
  • 最後までお読みいただきありがとうございました。

参考
・日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン:2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
・公益社団法人日本リハビリテーション医学会:リハビリテーション医療における
安全管理・推進のためのガイドライン
・心臓リハビリテーション学会編:心臓リハビリテーション必携

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