【ガイドラインに学ぶ】末梢動脈疾患のリハビリテーション

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ぴんころ
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こんにちは。心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。

この記事では、リハビリテーション適応のある末梢動脈疾患への介入方法」について解説します。

「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」の情報をもとに解説しています。

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用語の確認「PAD」「ASO」

末梢動脈疾患は「PAD(peripheral arterial disease)」、閉塞性動脈硬化症は「ASO(arteriosclerosis obliterans)」の略語で表されますが、この2つは現在ほぼ同義語で使用されています。国際的にはPADと呼ばれていて、ガイドラインでも「PAD」の疾患名で扱われています。

病態としては喫煙糖尿病脂質異常症などが原因で動脈硬化が進み、手足の末梢動脈が狭くなる、または詰まる疾患です。

動脈硬化のイメージ図

末梢動脈疾患の重症度分類

PADの重症度分類にはFontaine (フォンテイン)分類と、 Rutherford (ラザフォード)分類があります。以下に示すように、臨床症状によって重症度が変わります。表の下に行くほど重症です。

Fontain分類Rutherford分類治療法
無症候0:無症候動脈硬化リスク管理、抗血小板薬、運動療法、フットケア
Ⅱa軽度跛行(>300 m)1:軽度跛行動脈硬化リスク管理、運動療法、抗血小板薬、フットケア
Ⅱb中等度~高度跛行2:中等度跛行
3:重度跛行
運動療法、抗血小板薬、血行再建術、動脈硬化リスク管理
安静時疼痛4:安静時疼痛血行再建術、抗血小板薬、運動療法、フットケア、動脈硬化リスク管理
潰瘍、壊疽5:組織小欠損
6:組織大欠損
血行再建術+創部処置、抗血小板薬、血行再建後に感染がなければ除圧し運動療法、動脈硬化リスク管理

運動療法の適応と禁忌

ガイドライン上での運動療法の適応は、「間欠性跛行の有無にかかわらず、慢性末梢動脈狭窄を呈している症例」です。

ただ、実際には間欠性跛行の症状が出現してはじめてPADの診断がつく場合が多いため、リハビリで介入することになるのはFontain分類Ⅱb、Rutheford分類2~3の症例が中心です。

間欠性跛行のイメージ

それ以上重度になると、安静時から疼痛を呈する状態なので、血行再建術が治療の第一選択となります。

運動療法が禁忌となるのは「急性動脈閉塞(塞栓症・血栓症)と感染を伴う重症虚血肢(CLI:critical limb ischemia)」です。下肢虚血が高度で潰瘍や壊疽がある例では、感染がなければ免荷した状態での軽い運動に留めることが推奨されています。

リハビリの実際

ガイドラインで推奨されている運動プログラムのポイントをまとめると下記のようになります。

  • 監督下での運動療法が推奨されている
  • 運動の種類は、トレッドミルトラック歩行水中歩行が推奨される
  • 運動強度は、亜最大負荷である「かなりきつい」程度(Borg指数15‐17)の下肢疼痛が生じるまで歩く
  • 疼痛が消失したら、再度同程度の負荷の歩行を行うインターバル歩行トレーニング約30-60分続ける
  • 運動頻度は1日1~2回週3回以上(できれば週5日以上)、3カ月以上継続が基本

非監視下ではなく監視下で

ガイドラインによると、「間欠性跛行を有するPAD患者に歩くように指導しても、週3日以上歩くようになる確率は5%未満といわれている」という現状があり、非監督下ではほとんどの人が運動療法を継続出来ないということになります。

監督下と非監督下の運動療法効果の比較においても、多くの研究で「監督下の方が効果的」であることが示されています。

運動開始前の確認事項

運動開始前に、リスク管理のため以下の項目をチェックします。

  • 合併症(虚血性心疾患、脳血管疾患、運動に影響を及ぼす整形外科的疾患)の有無
  • 動脈硬化リスク管理状況(喫煙、糖尿病、脂質異常症、高血糖、肥満)
  • 各種検査所見:ABI、画像所見(エコー、MRI、CT、血管造影)など
  • 足部の状態:皮膚潰瘍やチアノーゼの有無、爪や靴による創傷の有無など
  • 運動状況:普段の運動習慣、最大歩行距離、跛行出現距離

運動療法の流れ

  1. 準備運動(ウォーミングアップ):ストレッチ(10分程度)
  2. 歩行運動:「下肢疼痛が出るまで歩く→休憩→また痛みが出るまで歩く」を繰り返す(少なくとも30分、最大60分)
  3. 整理体操(クールダウン)

運動強度の設定

実際の監督下でのリハビリ場面では、初回に血圧や心電図をモニタリングしながら運動負荷試験を行い、安全性を確認した上で運動処方が行われます。実際にリハビリを進めて行く中で、症状の改善が見られた場合は運動強度や持続時間を適宜変更していきます。

運動療法継続のために必要なこと

前述した運動プログラムは、痛みが出るまで何度も歩くという実際かなりきつい運動であり、継続するのは決して容易ではないと思います。

まず、患者さんは「足が痛いのに本当に歩いてもいいのか?」という疑問をもたれます。

そのため、「運動療法の目的」「継続したことで期待できる効果」についてしっかりと説明して、大げさかもしれませんが「一緒に困難に立ち向かう決意」を持ってもらう必要があると思います。

入院や外来で、長期間フォローできる場合は状況を確認できるので良いですが、短期間で非監督下に移行してしまう場合は、なおさら「決意」が必要になります。

運動療法の方法や強度、頻度をただ伝えるだけでなく、患者さんの生活スタイルに合わせて「どうすればこの運動を継続出来るか」を一緒に考えることが重要だと感じています。

頻度が少なくても、患者さんの運動状況を確認できる場合は、運動日誌などを用いて情報を共有します。運動がきちんと継続出来ていたり、歩行できる距離が前回よりも延びたりした場合は、最大級の賞賛でフィードバックを行うことで、運動意欲の継続につながると思います。

包括的リハビリテーションの重要性

ここまで、末梢動脈疾患に対する運動療法についてお伝えしてきましたが、もちろん運動療法がすべてではありません。

動脈硬化を悪化させないために、以下のことも重要なポイントです。

  • 完全禁煙を指導する
  • 高血圧合併例:高圧薬と減塩による血圧管理
  • 糖尿病合併例:血糖の管理
  • 脂質異常症合併例:スタチンを投与
  • 心筋梗塞、脳血管疾患の予防目的に抗血小板薬を投与

リハビリ中に、「薬はきちんと飲めていますか?」「禁煙で苦労されていませんか?」などの声掛けができると、さりげない生活指導ができると思います。

まとめ

  • 末梢動脈疾患のリハビリについてお伝えしました。
  • 痛みを伴う運動を長期間継続するということは、とても大変なことなので、リハビリを提供する立場としては、モチベーションを保っていただくための支援を継続して行うことが重要だと思っています。
  • 最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
1)末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版).日本循環器学会
2)心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版).日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会
3)岩倉具宏、安隆則:末梢動脈疾患の治療における運動療法の要点.Heart View Vol.23 No.5, 2019

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