少子高齢化が進む日本で、今後問題になると考えられている「心不全パンデミック」についてご存じですか?
この記事では、心不全パンデミックについて以下の内容でお伝えします。ご興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
心不全パンデミックとは
「パンデミック」というと、一般的に感染症や伝染病が全国的・世界的に大流行し、多くの感染者や患者を発生することをいいます。
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」で感染症ではありません。
しかし、現在の日本の超高齢化社会では「今後、高齢心不全の患者数が大幅に増加する」ことが予想されており、このことを「心不全パンデミック」と呼び、警鐘を鳴らしています。
実際下図のように、新規の心不全発症患者数は年々増加しており、今後は毎年35万人以上の方が、新たに心不全を発症すると予想されている状態です。
記事の後半でもお伝えしますが、心不全は悪くなったり(増悪)、良くなったり(改善)をくり返しやすい特徴があります。そのため、心不全患者の総数は新規患者数の何倍にもなり、現在すでに100万人をこえ、2030年には130万人に達すると推計されています。
日本では、年々心不全患者さんがどんどん増えていて、このことを「心不全パンデミック」と呼ぶんですね。これは知っておいた方がよさそうです!
「心不全パンデミック」が起こると、以下のような社会的な問題が生じると予想されます。
- 心疾患が原因による死者数の増加
- 心不全患者の増加による医療のひっ迫
- 心不全治療にかかる医療費の増加
厚生労働省の令和4年(2022)の人口動態統計月報年計によると、心疾患は死因の2位で全体の14.8%(1位は悪性新生物24.6%)を占めています。今後の心不全患者さんの増加に伴い、この数はますます増えるかもしれません。
なぜ今後心不全患者さんは増加するのか
ではなぜ、日本の心不全患者さんは増え続けているのでしょうか?
その大きな要因は「高齢化」です。
心不全の有病率は加齢と共に増加し、欧州のロッテルダム研究では、65~74歳の心不全有病率は「4%」、75~84歳では「9.7%」、85歳以上では「17.4%」であると報告されています。
また、米国の調査では、男女の心不全有病率はそれぞれ 40~59歳で「男性1.5% ・女性1.2%」、60~79歳で「男性6.6%・女性4.8%」、80歳以上で「男性10.6%・女性13.5%」であると報告されています。
いずれの研究でも、年齢を重ねるほど慢性心不全を発症する確率が高くなるのですね。
もう一つの要因として挙げられるのは「心不全治療の進歩」です。
心不全治療薬の進歩やエビデンスの構築により、心不全の治療は日々進歩し続けています。
そのため、現在では心不全を発症しても適切に治療すれば予後改善が望めます。
治療成績が上がり患者さんが長生きできることは、もちろん良いことですが、その一方で心不全患者さんの総数は増え続けることになります。
心不全を未然に防ぐ、重症化を予防するには
心不全の進展ステージ
心不全パンデミックへの対策を考えるにあたり、重要となるのが下図に示す「心不全の進展ステージ」です。
ステージはA~Dの4段階で、Dに近づくほど重症の状態です。
- ステージA:心臓に異常はないが、今後心臓に負荷がかかると予想される段階
- ステージB:心臓に異常があるが、まだ心不全を発症していない段階
- ステージC:心臓に異常があり、呼吸困難や浮腫などの心不全症状が出現した状態
- ステージD:治療することが難しい末期の心不全状態
大きく2つに分けると、心不全が発症する前がステージA/B、心不全発症後がステージC/Dとなります。
心不全発症前→発症の予防を!
心不全発症後→適切な治療と疾病管理を!
これが大切です!
心不全はどのように悪化していくのかを理解し、自分はどの危険度にいるのかを知っておくことが重要です。
「心不全ステージ分類」についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください↓
心不全の発症を予防する
ステージA/Bの「心不全は発症していないが、リスクは高い状態」の方は、心不全の発症を予防することが重要です。
具体的には、「①高血圧・糖尿病・動脈硬化性疾患などの心不全リスク因子を管理すること」や「②心臓弁膜症や心筋症、不整脈、冠動脈疾患などの心臓の異常を早期に発見すること」が挙げられます。
生活習慣を整え、まず「心不全の原因となる病気にならない」こと。
そして、心臓に異常を感じたら早めの受診・検査を行いましょう!
適切な治療と疾病管理を行う
ステージC/Dの「心不全がすでに発症した段階」の方は、適切な治療を受け、心不全の自己管理をしっかりと行うことが重要です。
上図にもある通り、心不全は初回発症のステージCの状態から、急性増悪を繰り返しステージDに移行していきます。
その過程で身体機能は低下し、心不全は治りくい状態になるため「いかに急性増悪(再入院)を防ぐか」ということが大切になります。
一度心不全を発症したとしても、早期からの医療介入と適切な自己管理で心不全の進行を防ぎましょう。
心不全パンデミックのまとめ
- 心不全患者さんの急増を表す「心不全パンデミック」についてお伝えしました。
- すでに高齢心不全患者さんはとても増加していて、対策は急務の課題です。
- 心不全発症の予防や、増悪しないための取り組みに関する知識が一般化することが心不全パンデミック対策につながると思います。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。この記事の内容が一つでも参考になれば幸いです。
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参考 ・Shimokawa H,et al.Eur J Heart Fail 17:884-892.2015 ・Bleumink GS, et al : Eur Heart J 25 : 1614―1619, 2004. ・Benjamin EJ, et al : Circulation 139 : e56―528, 2019.
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