日本の高血圧患者さんは約4300万人と言われ、非常に罹患率の高い疾患の一つですが、そのなかでも「悪性高血圧」というものがあります。
ここでは、「悪性高血圧」の病態や治療についてお伝えします。
一般的な高血圧と悪性高血圧の違い
「一般的な高血圧」は、血圧の値のうち収縮期血圧が140mmHg以上の場合、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合、あるいはこれらの両方を満たす場合に診断されます。
一方、「悪性高血圧」は拡張期血圧が120~130mmHg以上ある病態です。
拡張期血圧(最低血圧)が120₋130㎜Hg以上というと、かなり高い数値ですね!
この「悪性高血圧」は、2019年版の高血圧ガイドラインでは「加速型-悪性高血圧」として扱われていますので、以下では「加速型-悪性高血圧」として説明していきます。
海外では、「網膜出血や乳頭浮腫を伴う高血圧」と呼ばれることもあります。
加速型-悪性高血圧発症の要因
加速型-悪性高血圧は、以下のような要因が発症に関与すると言われています。
- 最初に高血圧を指摘された時点での血圧が高い
- 降圧治療の中断歴がある
- 長期にわたる身体的・精神的負荷
また、本態性高血圧の他、腎実質性高血圧、腎血管性高血圧などの二次性高血圧からも「加速性-悪性高血圧」を発症することがあります。
好発年齢は30~40代、男性に多く、60代以上では少ないのが特徴です。
加速型-悪性高血圧の症状
加速型-悪性高血圧の主な症状・病態は以下の通りです。
- 腎症状:急激に進行する腎機能障害(悪性腎硬化症)
- 眼底所見:乳頭浮腫、出血、軟性白斑
- 心症状:心不全
- 脳症状:頭痛、けいれん、意識障害など
- 病理所見:細動脈の内皮障害、フィブリノイド壊死、増殖性動脈内膜炎
「悪性高血圧」はこのように全身に影響を及ぼします。
放っておくと命に関わるものもあります!
加速型-悪性高血圧では、持続的な高血圧による圧負荷で、小~細動脈の血管壁損傷が生じます。
細動脈が多く集まる腎臓や眼底では影響が大きく、その結果として起こるのが「急速な腎機能低下」や「上記の眼底所見」です。
腎臓に関しては、小~細動脈の血管壁損傷に伴い、糸球体に圧負荷を生じ、糸球体の壊死・虚脱が起こります。
また、フィブリノイド壊死や増殖性動脈内膜炎により血管の内腔が狭窄して生じるのが、腎血流の低下です。
これらにより、生理的反応としてRAA系は亢進し、さらに血圧が上昇、腎機能は低下していくという、まさに「負のスパイラル」となります。
加速型-悪性高血圧の治療
「一般的な高血圧」に関しても、未治療の状態が続くと動脈硬化が進行して脳卒中や心臓病、腎臓病など重大な病気になる危険性が高まりますが、「加速型-悪性高血圧」は緊急の治療を要する状態です。
治療の中心はまず、「降圧治療」です。血圧を下げなければなりません。
ただし、加速型−悪性高血圧は、高血圧の病歴が長い患者に発症することが多く、急速な降圧は重要臓器の虚血をきたす危険があるため、緩やかに降圧治療が始められます。
最初の24時間の降圧、拡張期血圧100~110mmHgを目安に治療が行われ、その後全身状態を見ながら降圧治療が進められていきます。
加速型-悪性高血圧は、アンジオテンシン(RA)系の亢進が病態形成に深く関与しているため、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が著効することが期待されます。これらは腎機能悪化に注意しながら、少量から開始されるのが一般的です。
加速型-悪性高血圧の予後
・わが国の同一施設の検討によると、1971₋1983年の症例に比べ、1984₋1999年の症例では、発症時の眼底所見、左室肥大、腎機能障害などの臓器障害の程度が軽症となっている。
・英国での検討では1977年以前の症例に比べ、1997₋2006年の症例では、5年生存率が32.0%から91.0%まで著しく改善しており、発症時の腎機能障害の程度が5年間の死亡・透析の予後因子になっていた。
「高血圧治療ガイドライン 2019」より引用
治療の進歩による臓器障害や生存率の改善の報告がある一方で、加速型−悪性高血圧では発症後平均5.6年の経過で31%が末期腎不全に至るとの報告もあり、依然として腎臓に関しての予後は不良というのが現状です。
好発年齢が30~40代という若い年齢であることから考えても、早期の透析導入はなるべく避けたいところだと思います。
そのため「加速型-悪性高血圧」と診断された場合は、発症直後のみならず長期的な血圧管理がとても重要です。
コメディカルの立場としても、治療過程で降圧薬を自己中断してしまわないように、「なぜ降圧が必要なのか」「薬をやめて高血圧が続くと体がどうなるのか」を患者さんに説明する必要があると思います。
まとめ
- 加速型-悪性高血圧の病態や治療についてお伝えしました。
- 高血圧というと、罹患している方が多く身近にある病気ですが、高血圧にも多くの種類があり緊急に治療を要する場合があります。
- 医療従事者として病態を正確に理解し、患者さんと情報を共有することで、納得して治療を継続していただく手助けにつながるのではと思いました。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
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参考文献 1)日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019 2)松村 潔:高血圧緊急症、切迫症の診断と治療.Heart View Vol.23 No.11, 2019 3)全部見える循環器疾患,成美堂出版.2017 4)病気が見えるvol.8 腎・泌尿器第3版,メディックメディア株式会社.2019
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