2023年9月3~4日に行われた「日本呼吸・循環器合同理学療法学会学術大会2023」へ参加しました。
「誇りと信頼」をテーマに呼吸器・循環器に関して様々な講演や演題発表が行われ、合同企画では視点の違う立場からの講演で、とても勉強になる内容でした。
この記事では、今回の学会参加で気になったことや、個人的に勉強になったと思う内容をまとめています。
私自身の備忘録的な内容になっているかもしれませんが、興味のある方はぜひ最後までお付き合いください。
高齢心不全患者のフレイル実態調査
J‐Proof HF(Japanese PT multi-center Resistry Of Older Frail patients with Heart Failure;ジェイプルーフ)研究の中間報告がありました。昨年の学会のときから非常に気になっていた内容です。
これは循環器理学療法学会が主体となり、全国96施設、1万人以上の65歳以上の心不全症例を対象にした大規模の多施設研究です。
この調査の対象者の平均年齢は83歳で、65歳以上の方が対象の研究とはいえ、日本の心不全症例がいかに高齢化しているかということを感じました。
実際の医療現場でも、80-90代の心不全症例は年々増えているように感じています。
高齢心不全患者のフレイルと入院関連能力低下(HAD)
中間報告では現時点で分かっているデータについての報告がありました。
日本の高齢心不全症例におけるフレイルとHADの状況
- フレイル 63.3%
- 入院関連能力低下(HAD) 37.1%
対象者が高齢ということで、入院時からフレイルを有する患者さんが半数以上の63.3%でした。
実際に臨床で心不全症例にフレイル評価をしていても、高確率でフレイルを有しているので、納得の結果でした。
また、入院関連能力低下(HAD)を起こした症例は37.1%で、これは思ったよりも多いなと感じました。
そして、HADがある群では、ない群に比べて入院中のリハビリ時間が短い(2単位未満)結果となっており、ADLが低いまま退院に至っていることが示唆されています。そのため、HADの予防のためには急性期の段階から、必要な量のリハビリを提供することが重要だとあたらめて思いました。
入院前のADL低下状況によって、HADに注意すべき要因が異なるという点も興味深い内容でした。
HADになりやすい症例
・入院前Barthel Index85点以上→フレイルを有する方
・入院前Barthel Index85点未満→重症例、認知機能低下例
この基準に該当する方は、特にHADに注意して介入したいですね!
高齢心不全患者と自宅退院
今回の調査結果では、高齢心不全症例の85.4%が自宅退院されていました。
自宅退院できなかった症例の特徴として、以下のことが挙げられていました。
- NYHAが重症
- 入院前のBarthel Indexが低く、介護度が高い
- 認知機能が低下している
- 在院日数が長いが、1日あたりのリハビリ提供単位数が少ない
- 退院時の握力が低く、歩行速度が遅く、SPPBの点数およびADLが低い
心不全の重症度や入院前のADL状況に関しては私たちが介入できない内容ですが、入院時の情報収集の段階から退院先を予測するためには重要な情報だと思います。
認知機能が低下している症例に対しては、入院中のさらなる認知機能低下を予防するための介入が必要です。
また、HADがある群に関しても挙げられていた「リハビリ提供単位数が少ない」ことも、自宅退院に関連している可能性があるという結果から、入院中に十分なリハビリ介入をして、身体機能・認知機能の維持改善に努めることは、心不全患者さんのADLおよびQOL改善のために必要であることを再認識しました。
病態をしっかりと理解した上で、積極的なリハビリを実施できるようになりたいですね!
研究によって根拠・証拠を自ら示していくことの重要性
高橋哲也先生が前回の学会からおっしゃっていたことですが、これらの研究を通して「循環器理学療法の必要性」「自分たちの存在意義」を自分たち自身で示していくことは非常に重要だと思いました。
今回、私の勤務先はこの研究に参加できませんでしたが、今後このような調査・研究があればぜひ積極的に参加していきたいと思っています。
フレイル・サルコペニア、HAD
フレイル・サルコペニアに関しては、近年どの分野でも盛んに取り上げられている内容で、今回の学会での多くの講演や発表がありました。
また、入院関連能力低下(HAD)に関しても多く取り上げられており、1つの演題カテゴリに挙がるほどに関心が高まっているのが印象的でした。
HADに関する関連記事はコチラ→(入院関連機能障害【HAD】とは)
心不全患者の約20%がサルコペニアを有しており、HFpEF・HFrEF症例いずれにおいてもサルコペニアを伴うと予後が不良とされています。
また、心不全症例でフレイルを伴うと予後不良で、それが重症であるほど予後不良となります。
重度のフレイルになるとリハビリの効果は乏しいですが、軽度・中等度のフレイルには心臓リハビリの効果があると報告されているため、リハビリの介入により、フレイルの進行を予防していきたいと思いました。
サルコペニアやHADについても知識を増やし、患者さんのリハビリへ還元できるように努力していきたいです。
リハビリと栄養管理
「重症患者に対する理学療法と栄養管理」に関して、飯田有輝先生の講演がとても勉強になりました。
急性期病院での早期のリハビリ介入と早期離床が当たり前になってきている昨今ですが、だからこそ私たち理学療法士は患者さんの病態をしっかり理解してリハビリを進めていく必要があると改めて感じる内容でした。
ただ闇雲に離床を促すのではなく「重症の患者さんの体の中で何が起こっているのか」、「栄養管理はどのように行われているのか」、「それをふまえてリハビリはどのように介入すべきなのか」についてもっと学んでいかなければと思っています。
- Acute Sarcopenia:イベント発生から28日以内に発生した筋量・筋力の減少
- ICUの重症患者が失う筋タンパク量:1kg/日
- タンパク質・エネルギー低栄養(PEM)は予後不良
- 侵襲早期のエネルギー充足率は80%が最も予後が良い(急性期はoverfeedingに注意が必要)
- 侵襲早期は異化亢進により内因性エネルギー供給が増大する
- 侵襲後期は同化促進に向けて積極的な理学療法と栄養療法を併用する
女性理学療法士が循環器分野で活躍するために
私が個人的に印象に残ったのは、JSCVPTの大会企画である「女性理学療法士が循環器分野で活躍するために」というディスカッションでした。
山端志保先生が話されていた「人生すべて決断と挑戦」という言葉が心に残っています。
家事・育児・仕事・学業の4足のわらじを履いて、活躍されている姿をみて本当にすごいと思いました。
私自身も人生の「決断」や自分なりの「挑戦」をしてきたわけですが、「これは無理だな」とか「このくらいにしておこう」と、挑戦もせずに諦めていることはこれまでにたくさんありました。
家庭と仕事の両立となると「ワークライフバランス」がとても難しくなりますが、周囲の人の助けをかりながら両立されている方は多いです。
将来自分の人生をふりかえったとき、「あの決断は間違ってなかった」「あの時挑戦してみて良かった」と思えるようなこれからにしたいと思いました。
学会参加のまとめ
- 「日本呼吸・循環器合同理学療法学会学術大会2023」へ参加した内容や感想をまとめました。
- 久しぶりの学会参加でしたが、多くの学びがあり、モチベーションを高めるにはとてもいい機会になりました。
- これからも自己研鑽を続けて、目の前の患者さんのリハビリへ生かせるように努力を続けていきたいです。
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
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