むくみとは
人間の体の約6割は「水分」と言われますが、これらの水分は細胞に栄養を送ったり、老廃物を除去したりする役割があります。
通常、細胞や血管の中を行き来して体内の水分のバランスは一定に保たれていますが、このバランスが何らかの原因で崩れることで「むくみ」が起こります。
むくみ:血管の中の水分が「血漿」として血管外に異常にしみ出して、組織と細胞の間に余分な水分が貯留した状態
医学用語では、この「むくみ」のことを「浮腫」といいいます。
むくみの見分け方チェックポイント
「むくみ」と一言でいっても、種類や原因は様々です。そこで、どのような原因でむくみが起こっているのかを見分けるうえで重要なチェックポイントを示します。
このポイントをもとに、自分のむくみの種類がどれに該当するか考えらながら、読み進めてみてください。
女性に多いむくみの特徴
まずは、最も頻度の高いケースについてです。
私、会社から帰ったら必ず足がむくんでて心配なんですけど、なんかの病気ですかね。
いいえ、大丈夫です。夕方になると足がむくんで、翌朝には治る「むくみ」の多くは病気ではありません。
原因と解消法についてお伝えしますね!
女性に多いむくみの原因
若年の女性に多いにむくみの多くは、仕事で長時間同じ姿勢をとることでおこる「むくみ」です。
この場合は、仕事が終わる夕方から夜にかけてむくみを自覚し、朝にはむくみが軽減している場合が多いと思います。
これは、「長時間座るデスクワーク」や、「ハイヒールの靴で長時間立つ」などの習慣により、足のふくらはぎの筋肉の血流が滞ることによって「むくみ」が生じます。
また、女性は男性よりも元々筋肉の量が少ない点も、むくみやすさに影響しています。
女性に多いむくみの解消法
この「むくみ」の解消法としては、「足首をこまめに動かす」「長時間同じ姿勢をとらないように心がける」ということが大切です。
足首を上下に動かすことで、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割を果たして、足のむくみを予防します。時々立ち上がって、スクワットや背伸び運動をするのも効果的です。
仕事中はなかなか動けないという方は、弾性ストッキング(着圧ソックス)をはくのもオススメです。圧力の高い靴下を履くことで、筋肉の収縮を助け、血行やリンパの流れを促進し、足のむくみを軽減する効果があります。
女性に多いむくみの予防法
「むくみ」を起こしにくくするためには、以下のことに気を付けましょう。
- 体を冷やさない
- 食生活に気を付ける:塩分を摂りすぎない、カリウムを摂取する
- 無理なダイエットをしない
- 適度な運動をして、筋力をつける
- 水分やアルコールを過剰に摂取しない
では、ここからは病気の影響が考えられる、「注意を要するむくみ」について見ていきましょう!
むくみの原因による分類
「むくみ」は原因によって、以下の4種類に分類されます。むくむという結果は同じでも、その機序は病態によってそれぞれ異なります。
- 血管内静水圧の上昇:心不全、腎不全、静脈閉塞、リンパ管閉塞など
- 血漿膠質浸透圧の低下:肝不全、低栄養、ネフローゼ症候群など
- 毛細血管の透過性亢進:感染症、アレルギー、炎症など
- リンパ管閉塞:がん手術におけるリンパ管の摘出、放射線療法など
血管内静水圧の上昇
心臓のポンプ機能の低下や尿量の減少などで体液が貯留し、毛細血管内圧が上昇することにより、間質に水分が染み出し浮腫が生じます。
血漿膠質浸透圧の低下
血管と間質を隔てている血管壁には隙間があり、水分や電解質が行き来して体液の調節を行っています。血中のたんぱく質である「アルブミン」は血管内で水分を保持する役割(膠質浸透圧)があり、この機能が低下し血漿の流出量が増加することで浮腫が生じます。
毛細血管の透過性亢進
炎症などの原因で毛細血管から水分が染み出しやすくなり、間質に水分が貯留し浮腫が生じます。
リンパ管閉塞
リンパ管が圧迫や狭窄、閉塞することで流れが悪くなり浮腫が起こります。
むくみの原因を調べて、それぞれの原因疾患に対しての治療がむくみの改善につながります。
むくみの場所による分類
「むくみ」は手足や顔などの「全身で両側性に起こる浮腫」と、体の一部に起こる「局所性で片側の浮腫」があります。
全身性浮腫
全身にむくみが出る場合に考えられる原因としては、心不全・腎不全・肝硬変などの内科疾患や、甲状腺機能低下症、薬剤性などが考えられます。
局所性浮腫
体の一部に起こる局所性の浮腫の原因としては、血管性(下肢静脈瘤、深部静脈血栓症など)、リンパ性、炎症性、外傷性などが考えられます。
むくみの性質による分類
むくみの部分を指で押さえたときに、圧痕が残る「圧痕性浮腫(pitting edema)」と、残らない「非圧痕性浮腫(non-pitting edema)」があります。
圧痕が残るタイプ
圧痕性浮腫は、水分のみが間質に貯留している状態のため、押さえたときに跡が残ります。
この症状で考えられる病気としては、心不全、腎不全、肝硬変、低アルブミン血症などが挙げられます。
圧痕が残らないタイプ
圧痕が残らないタイプの浮腫は、水分とともに血漿由来成分や炎症細胞の浸潤があるため、圧痕が速やかに戻ります。
この症状の場合は、甲状腺機能低下、リンパ浮腫が疑われます。
むくみを伴う疾患/むくみの機序
心不全
心不全とは「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されています。心臓に何らかの障害あり、血液をうまくめぐらせることができなくなる病態で、体の血流が滞りむくみやすくなります。
腎不全
腎不全とは「腎臓の機能が低下した状態」をいいます。腎臓は血液をろ過して老廃物を尿として体外に排出する役割を担っており、腎機能が低下すると、老廃物を含んだ水分を体外に排出できなくなるため、むくみが起こります。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは「血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態」です。このホルモンは、血液の流れに乗って心臓や肝臓、腎臓、脳など体のいろいろな臓器に運ばれて、体の新陳代謝を盛んにするなど大切な働きをしています。甲状腺ホルモンが少なすぎると、代謝が落ちた症状がでてきて、その一つが「むくみ」です。
肝硬変
肝硬変とは「慢性肝疾患において肝臓内に線維組織が増え、肝臓が硬くなる病気」です。肝臓全体が硬くなるため、肝臓でアルブミン等のタンパク質が合成できなくなります。アルブミンは水分を血管内に保持する働きがあるため、血液中のアルブミンが低下すると、水分が血管から間質に漏れ出し、全身のむくみが起こります。
下肢静脈瘤
下肢静脈瘤とは「足の静脈が太くなって瘤(こぶ)状に浮き出て見えるようになった状態」をいいます。
静脈の中には静脈弁があり、血液が心臓に向かって流れるときだけ開くようになっており、血液の逆流を防いでいます。この静脈弁がなんらかの原因で壊れると「下肢静脈瘤」を引きおこします。
下肢静脈瘤は女性に多い病気で、ふくらはぎの部分の血管が膨らみ、足がむくみます。ただし下肢静脈瘤は良性の病気ですので、急に悪化したり命にかかわることはありません。
深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
深部静脈血栓症とは「大腿静脈、腓骨静脈、あるいは骨盤内の静脈などで血液が凝固して血栓ができる病気」です。静脈に血栓ができた場合、その足は腫れ上がり、痛みを生じるのが特徴です。
さらに、血栓が静脈を流れて行って肺の血管をふさぐ「肺塞栓症(エコノミークラス症候群)」の原因になることもあります。この場合、命に関わることもあるため、足を動かし静脈の血流が滞らないようにして、まず血栓を作らないようにすることが重要です。
悪性腫瘍(がん)
悪性腫瘍(がん)が原因で起こるむくみの多くは「リンパ浮腫」です。がんの治療では、リンパ管やリンパ節を手術で切除したり、放射線照射をしたりすることで、リンパの流れが停滞し「むくみ」が起こります。
上肢のリンパ浮腫は、 乳がんなどのがん治療後に起こりやすく、下肢のリンパ浮腫は、卵巣がん、子宮がんなど婦人科系のがん治療後が多く、前立腺がんや大腸がんの治療後に起こることもあります。
低栄養(低タンパク血症)
体に必要な栄養素の摂取量が不足してタンパク質が不足すると、血液中にアルブミンが不足し、全身のむくみの原因になります。
注意を要するむくみ(受診の目安)
以下のような特徴のある「むくみ」や、症状を伴う場合は、速やかな治療を要する可能性があるため、病院への受診をおすすめします。
- むくみが何日も続き、日に日にひどくなる
- ひどく疲れやすい
- 体重が急に増えた
- 尿の出が悪い
- むくみだけでなく、呼吸苦の症状がある
- 内臓(心臓・腎臓・肝臓など)に持病がある
- むくんだ場所の痛みや発熱がある
「むくみ」についてのまとめ
- 「むくみ」は一時的で病気によるものでないものが多いですが、中には治療を要するものがあります。
- むくみの原因となる病気とその特徴を知っておくことで、自分に対処できるものか、病院に受診すべきものなのかを見分けることが可能です。
- 痛みを伴わないむくみは放置されやすく、かなりひどい状態になってから受診されるケースが少なくありません。日ごろから「むくみ」の症状をお持ちの方は、状態の変化にぜひ注意を払ってください。
- この記事が一人でも多くの方の参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
参考 ・病気がみえるvol.8 腎・泌尿器 第3版.メディックメディア.2021 ・大川庭煕:老年症候群に対する診察 浮腫.Geriat.Med.60(6):551~555,2022
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