体力測定などで、誰もが一度は経験がある「握力測定」。
この記事では、「握力」に関して以下の内容を解説しています。
「握力」は握力計ひとつあれば簡便に測定でき、自分の現在の身体の状態を知るとても有用な指標です。ぜひ参考にしてみて下さい!
なぜ握力を測定するのか?握力で何が分かる?
握力は全身および下肢の筋力や骨格筋量と関連性があり、全身の筋力を知るための指標となる
Eur J Pediatr.2010;169:281-7
握力は足把持力、大腿四頭筋力、骨格筋量、上体起こし、片足立ち保持時間、10m障害物歩行、6分間歩行テストと有意な相関があり、高齢者の全身的な体力を反映することが示唆された
West Kushu Journal of Rehabilitation Sciences2010;3:23-6
握力の経年低下が大きいほど総死亡、循環器死亡、およびその他の死亡リスクが有意に上昇する
循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「身体活動・不活動量・運動量の実態とその変化が生活習慣病発症に及ぼす影響と運動介入支援の基盤構築に関する研究」平成26年度総括・分担研究報告書2015.
握力が5kg低下するごとに、認知症の発症リスクは男性で1.16倍、女性では1.14倍に増加する。アルツハイマー病のリスクは1.11倍と1.13倍、血管性認知症のリスクは1.23倍と1.20倍。
Duchowny KA, et al. JAMA Netw Open. 2022;5(6):e2218314.
上述のとおり、握力の低下は全身の筋力や体力の低下と関連しています。
つまり、握力が低下しているということは、全身の身体機能が衰えいていることが考えられるのです。
また、握力の経年低下と死亡リスクの関連性や、中年期に握力低下が認知症のリスク上昇に関与するという報告もあるため、握力は生命予後や認知機能の予測にも役立つ可能性があります。
握力は、単に手の力を測るだけではなく、現在の身体機能や今後の予後予測に有用だから測定する意義があるんですね!
握力の正しい測り方
握力測定のポイント
- 測定姿勢:基本的には直立姿勢で測定します。立位保持が困難な場合は座位で測定します。
- 測定器の設定:握力計を握り、人差し指の第2関節が90度になるように握り幅を調整します。
- 測定の肢位:立位では肘を伸ばして、座位では肘を90度屈曲して測定します。
- 握力測定は、検査者の合図とともに3秒間最大努力下で握力計を握り行います。
- 握力は左右交互に2回ずつ測定し、左右それぞれの最大値の平均を握力値として採用します。
握力測定の注意点
- 握るときは、握力計が身体や衣服に触れたり、握力計を振り回さないように注意します。
- 握力測定中は、息を止めないように注意します。
- 握力を前回の値と比較する場合は、肢位(立位か座位)を統一して測定しましょう。
握力の平均値
握力の平均値はどのくらいなのでしょうか?男女別の握力の平均値は以下の通りです。
※表はスポーツ庁の「令和2年度体力・運動能力調査結果の概要(速報)について」の結果をもとに作成しています。
男性の握力平均値
年齢 | 握力(㎏) |
10 | 17.48 |
15 | 36.93 |
20ー24 | 45.56 |
25ー29 | 45.13 |
30ー34 | 46.35 |
35ー39 | 45.27 |
40ー44 | 45.32 |
45ー49 | 45.29 |
50ー54 | 45.01 |
55-59 | 45.43 |
60ー64 | 42.38 |
65ー69 | 39.70 |
70ー74 | 38.39 |
75ー79 | 35.20 |
男性の握力は20~30代でピークとなり、60代から徐々に低下していくんですね。
女性の握力平均値
年齢 | 握力(㎏) |
10 | 17.35 |
15 | 25.69 |
20ー24 | 27.37 |
25ー29 | 27.43 |
30ー34 | 28.76 |
35ー39 | 28.49 |
40ー44 | 28.20 |
45ー49 | 28.30 |
50ー54 | 27.86 |
55-59 | 26.90 |
60ー64 | 26.56 |
65ー69 | 25.09 |
70ー74 | 23.91 |
75ー79 | 22.58 |
女性の握力は男性に比べて全体的に弱く、ピークの時でも20㎏台後半です。
そして70代をこえると、握力が顕著に低下しているのが分かります。
実際、握力はどのくらい必要?
握力の平均値は分かりましたが、自分の握力が平均値以下という方も多いのではないでしょうか?
それでは、実際どのくらいの握力があれば大丈夫なのでしょうか?
フレイル・サルコペニアについて
加齢や運動不足などが原因で、筋力や体力が衰えることは、誰にでも起こりえます。
超高齢化社会の現在、「フレイル」「サルコペニア」という言葉が健康寿命を延ばすために注目されています。
「フレイル」とは、加齢に伴い身体の予備能力が低下し健康障害を起こしやすくなった状態(虚弱)を指します。
一方「サルコペニア」は加齢や疾患により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態を指します。
フレイル・サルコペニアが進行すると、日常生活に支障をきたすようになり、「要介護状態」に近づいていくため予防が大切とされています。
フレイル・サルコペニアにおける「握力の基準値」
フレイル、サルコペニアを診断する基準の一つに今回のテーマである「握力」があります。
握力が以下の基準値を下回ると、フレイル・サルコペニアの可能性があります。
握力:男性28㎏未満、女性18㎏未満
そのため、この基準値を上回る握力は維持しておきたいですね。
「男性は28㎏以上、女性は18㎏以上をキープ」と覚えておきましょう!
握力を鍛える方法は?
握力を鍛えるには、前腕筋群(腕橈骨筋・回外筋・浅指屈筋など)を鍛えることが必要となります。
「家庭でも簡単にできる握力の鍛え方」をいくつかご紹介します!
道具を使った方法
- ハンドグリップ:ご自身にあった強度のハンドグリップを準備し、握って離すを繰り返します。最近は100円ショップでも見かけるようになったので、比較的簡単に手に入る道具となっています。
- ゴムボール:伸縮性のあるゴムボールを握ったり離したりすることで握力を鍛えます。下図のように指をはめることが出来るボールもあります。
身近なもので握力強化
- ペットボトル:水の入ったペットボトルを握り、手のひらを上にして手首を上下に動かします。
- 新聞紙:腕を前に伸ばした状態で、新聞紙を片手でグシャグシャに丸める運動を行います。
- タオルを絞る:両腕をのばし、雑巾しぼりの要領で前後交互にタオルを絞ります。
器具を使わない方法
- グーパー運動:両手を前に伸ばして全力でグーパーを繰り返す運動です。単純な運動ですが、全力で行うとかなり疲れます。
- 懸垂:これは元々かなりの握力がないと難しいかもしれませんが、鉄棒などを両手でつかみ上下に懸垂をします。握力のみならず上半身全体の筋力強化に有効な運動です。
握力を鍛えるにはいろいろな方法がありますが、「自分に合った強度」で「継続しやすそうなもの」を選択するのがポイントです。
握力強化の注意点
- 過度なトレーニングで腕の筋肉や腱をいためないように注意しましょう(痛みを感じたら休む)
- 握力だけ鍛えれば、全身に力が付くわけではないので、全身運動(ウォーキングなど)も併せて行います。あくまでも握力は全身の筋力の一つとして捉えましょう。
握力をはじめ全身の筋力が衰えないように維持して「健康寿命」をのばしましょう!
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