こんにちは。心臓リハビリテーション指導士のぴんころです。
今回は循環器学会ガイドラインの中で、2022年に改訂されたものを紹介します。
2022年4月末現在、循環器学会ガイドラインでは、以下の5つが改訂(うち1つはフォーカスアップデート)されています。
- 2022年改訂版 「末梢動脈疾患ガイドライン」
- 2022年改訂版 「先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン」
- 2022年改訂版 「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」
- 2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 「安定冠動脈疾患の診断と治療」
- 2022年改訂版 「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」
この記事では、各ガイドラインの概要と今回の改訂点についてまとめています。
近年の循環器ガイドラインの動向について、興味がある方はぜひご覧ください!
末梢動脈疾患ガイドライン
「末梢動脈疾患(PAD)ガイドライン」は初版が2009年、改訂版が2015年に刊行されており、2022年は2回目の改訂となります。
冠動脈以外の末梢動脈である四肢動脈、頸動脈、腹部内臓動脈、腎動脈および大動脈の閉塞性疾患を対象にしたガイドラインです。
改訂点1:PADの「市民・患者への情報提供」の章を新設
PADは、冠動脈疾患や脳血管疾患に比べて国民の認知度が低く、予防や早期発見が遅れている現状があります。
そのため、今回の改定で啓発を目的として、末梢動脈疾患の中でも患者数が多く、近年特に増え続けている動脈硬化性の慢性下肢動脈閉塞について、全部で12問の設問を設けて、診断や治療について情報を提供する内容が掲載されています。
改訂点2:各章・各節の冒頭で、エッセンスを「ステートメント」として紹介
冒頭にその章や節の重要ポイントが「ステートメント」としてまとめられているため、概略をつかんでから内容を確認することができ、以前に比べ読みやすくなるように工夫されています。
改訂点3:新たな治療薬や治療法、近年の治療について詳しく解説
各疾患における血管内治療の役割の拡大、新たに進歩・普及した抗血栓薬や糖尿病治療薬・脂質異常治療薬・再生医療やその他の補助療法、腎機能障害などについて、ページ数を割いて詳細に記載されています。
改訂点4:実臨床でいまだ明確な方針が示されていない12個の臨床的課題について解説
今回のガイドラインでは、practical question(PQ)として12個の臨床的話題が取り上げられています。(例:CLTI症例の虚血評価において ABI(ankle brachial index)評価で十分であるか?)
各章や節で生じる、臨床での疑問についてQ&A形式で示されているため、とても実用的な内容になっていると思います。
先天性心疾患術後遠隔期管理・侵襲的治療に関するガイドライン
「先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン」の対象は先天性心疾患術後遠隔期の患者、つまり主に成人先天性心疾患(ACHD)患者です。このガイドラインは2012年以来の改訂です。
主な改訂事項
- CHD術後遠隔期に問題となる主要な病態である、心不全、不整脈、肺高血圧症を取り上げ、「不整脈」の項に「突然死」を追加
- ACHDの病態への関与が重要となる生活習慣病と慢性腎臓病などを新たに加えた
- 「先天性心疾患の特殊性」の項目も新たに加え,一般循環器疾患患者とCHD患者とにおける管理・治療の違いの有無を明記した
- 左心低形成症候群の遠隔期生存例が増加している現状から、今回のガイドラインに追加された
- 終末期医療、緩和医療といった患者との真摯な対峙が求められる機会が増加した医療現場を意識した内容となっている
不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
不整脈診療ガイドラインは診断と治療(薬物療法、非薬物療法)の大きく3つにまとめられています。
2020 年に「2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン」が,非薬物治療においては「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)」と、補完版の「2021 年 JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療」が公開されており、「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」は、上記の不整脈診療の主要 3 項目の「診断」を担うものと位置づけられています。
このガイドラインでは「心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010 年改訂版)」の改訂を中心として、「失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)」、「臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン(2011 年改訂版)」、「心疾患患者の学校、職域、スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン(2008 年改訂版)」 の統合が試みられてます。
また、「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017 年改訂版)」の診断に関して一部アップデートし、現在の遺伝学的検査の保険適用の状況と考え方などについて記載されています。これにより、不整脈診断を適切に行うための総合的な手引きとなり、心臓突然死などの不整脈リスクの評価の指針となるように試みられています。
安定冠動脈疾患の診断と治療
安定CAD(冠動脈疾患)に対する管理・治療戦略に関しては、近年「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つの診療ガイドラインが策定されていますが、それらに含まれない重要な情報について記載されたのが「2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療」です。
このフォーカスアップデートは、最近の大規模研究のエビデンスに基づき、安定CADの管理全般に求められる指針を提供することを主たる目的とされています。改訂点は以下のとおりです。
フォーカスアップデートにおける主な改訂点
1.安定 CADの検査前確率(pre-test probability: PTP)と臨床的尤度(clinical likelihood: CL)の系統的評価方法を示した.
2.検査前確率・臨床的尤度(PTP・CL)シーケンスと各施設における画像検査モダリティの使用状況を加味した非侵襲的画像検査選択の最適化アルゴリズムを作成した.
3.解剖学的・機能的リスクおよびOMTへの反応性に基づいた侵襲的冠動脈造影と血行再建の適応とそのタイミングを明記した.
4.イベント予防と症状緩和を目的とした最新の目標設定型OMTの早期導入の重要性を強調した.
2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 「安定冠動脈疾患の診断と治療」より引用
非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン
「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」は、2014年改訂版以来、8年ぶりの改訂です。
ガイドラインは、周術期の管理、術前評価、薬物治療、循環器疾患別周術期マネージメントなどの内容で構成されています。
今回改訂された経緯について、以下にまとめます。
改訂の経緯
- 2014年以降、抗血小板薬や抗凝固薬、その周術期使用に関するエビデンスも増えており、さらに冠動脈疾患の治療に対する考え方も劇的に変化している
- 並行して大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)など Structural Heart Disease (構造的心疾患)の分野でもさまざまな介入法が出現している
- 上記2点の背景をふまえ、周術期の背景知識を整理し、推奨作成することが重要と考えられ、2022年の全面改訂版に至った
【2022年改訂】循環器学会ガイドラインのまとめ
- 2022年(4月末時点まで)に改訂された循環器学会発行のガイドラインについてまとめました。
- 毎年ガイドラインは複数更新されており、最新の研究結果に基づいて作成されます。
- 知識のアップデートに役立てていきましょう!
- 最後までお読みいただきありがとうございました。
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